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Lv.0-41
 それは本当に無意識の行動だった。
 仲間である未来にではなく、『助け』を必要とさせた相手に、ヤマトにそれを求めたのは。
 俺の身体は幾度となく繰り返されて刷り込まれた条件反射で―――そう、それは条件反射だ。そうでなければおかしい、そうでなければならないのだから―――ヤマトにそれを求め、そして求められた目下のヤマトは俺のそれを受けると凍らせていた表情をゆっくりとほどいた。
 その双眸は融けぬ絶対凍土の如く酷く鋭く冷たかったが、それでも口元にいつもの笑みを乗せて俺たちを―――否、俺を、だ―――見上げて「彼方」と再度、俺の名を呼ぶ。
 そしてその薄い唇が弧を描いて紡ぎだした言葉は、待ち望んだものだった。

「―――約束通り、今日は我慢してあげる」

 ヤマトのその言葉と同時に、ピピピピピと高い電子音が辺りに響き渡った。
 それは言葉を発したヤマトの元から聞こえてきて、それが時計のアラームであることに俺は気付く。
 そう、タイムオーバーだ。最悪の鬼ごっこの終幕を告げる音。俺がヤマトから解放される祝いの鐘だ。
 しかし、その喜ばしい音も俺の耳を素通りする。
 俺の聴覚はいまや、ヤマトの音声しか拾えない。それ以外を拾うことを許さない響きが、ヤマトの声音には含まれていた。少なくとも、俺にはそう思えた。
 だって、『今日は』の部分の声音が、一段低い低音に変わったんだ。『今日は』、我慢してやると。
 その言葉が示す意味を推しはかりたくなくて、けれども現実はそうもいかなくて、俺はただゴクリと咥内に溜まっていた唾液を飲み下した。
 苦味のあるそれに、俺は意図せず眉根を顰める。嫌な汗ばかりが湧いて出た。
 そしてヤマトは、俺と同様にアラーム音など耳に入っていないかのように気にした様子もなく続ける。

「―――でも」

 ピピピピと鳴り響き続けた電子音は、次第に小さく消えていく。
 かわりに風がより一層強く吹き荒んで俺の頬を打った。冷たさも、感じない。痛覚が麻痺したようだ。ただヤマトの唇の動きだけを視線が追った。
 けれども俺は、その続きを、聞きたくなかった。耳にいれたくなかった。なのに。

「次会うときは―――どんなに可愛くおねだりされても、その場で押し倒して服剥いでそのまま突っ込むから」

 聞きたくなかった言葉は、すとんと簡単にヤマトの唇から滑り落ちてきた。
 「そのつもりで、ね?」と言い含めるように首を傾げるヤマトを視界に入れて、俺はしかし、罵ることも非難することもできなかった。
 声が出なかった。出せなかった。ただ、その言葉を受け止めるしかできなかった。身体が、動かなかったのだから。

「それでないてないて声も出せなくなるくらいなかせ続けてあげる。勿論どんなに許してっていっても許してあげないから。それで今日捕まっておけばよかったって思うくらい、愛してあげる」

 「…あ、でも可愛く『ヤマト好き』って言ってくれたら許しちゃうかも。まぁわかんないけどね」と軽い冗談のように付け加えながら、にこりと微笑み、ナイフを握った片手をひらひらと振って、俺を―――俺だけを見つめてくるその双眸は、至って本気だ。本気すぎて冷たい。猫のように細まった瞳孔が、俺は恐ろしかった。


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あきゅろす。
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