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Lv.2-159
 俺は能力の使用に伴う鈍痛がまた強くなった側頭部をぐっと押さえながら、自身が発した問いの答えを待つ。
 そして有能な諜報員たる俺の手足は、執務机の前に横一列に乱れなく並びつつ、この場の序列最高位である緋夏を飛ばして一人ずつ各々が調べ上げた情報を簡潔に述べ始めた。
 それらは俺が作業の片手間でも理解できるようにという配慮なのだが、いかんせん、情報量が多すぎる。
 俺は前置として語られる様々な情報を脳内の引き出しにしまい込みながら、今回の事件の要たるそれが出るのを待った。

「―――犯人の目星ですが、当初は第4地域の関係者という可能性もありましたが、当該時間に『門番』の移動は認められませんでした。したがって、第4地域の綺羅は除外されました」

 そして待ちに待ったその情報は、俺にとってはなかなかに衝撃的なものだった。
 というのも、俺のなかの最有力候補は第4地域の『門番』だったからだ。
 思わずやや伏せていた顔を持ち上げた俺は、その報告をあげた男を見やる。

「まじか。てっきり綺羅の報復かと思ってたがな」

 実際、俺が件の事件で面会した時の反応といえば、地域性もあるだろうが酷く偏屈で何より意地の悪い、詰まるところ大変心証の悪い男だったのだ。
 しかし、俺の言葉にその場の面々が全員首を横に振る。
 俺は軽く目を見張り、男たちの顔を順番に視界に入れた。そのどれもが、「それはない」と言葉なく語っている。

「駿河様、お言葉ですが、今回の事件を起こすだけの利が第4にはないと考えます」

 そしてその言葉ない考えを、緋夏が代表して言語化した。
 緋夏は渋い表情で―――俺の言葉を否定することが心苦しいのか、いや、この場合は俺の考えこそ一番ありえないと考えている顔だ。実際、それをこの場の面々が顔に出しているのだから、つまりそういうことなのだろう。つまり、言葉は遠回しに俺の推理を完全に却下しているのだ。
 とはいえ、この場にいる面々は俺よりも優秀な人間なので、おそらく俺の考えは間違っているのだろう。
 そう言われると、確かに第4地域がわざわざ第8地域の人間をさらう理由もなければ、事件からそれなりに月日が経っているというのにあの男がカナちゃんを殺そうと思うはずもないだろう。そもそも、その理由があそこのボンクラ息子と関係するならば、標的自体が間違っている。そしてそれらに伴うリスク―――地域間での戦争をも辞さない行為は、第4地域の地域色としては当てはまらないだろう。あそこは他地域との関係があって栄えている面が強い。たとえ選民主義の強い上層階級が多くとも、そのような愚は犯すまい。俺は少し考えると芋づる式に導かれる答えに、少しばかり恥ずかしくなった。
 しかし、それでも俺も言いたいことはある。

「だが当初の『失踪事件』の共通点だって第4に渡ったやつだっただろ? あれとは無関係なのか?」

 そう、この情報は千里がもたらしたものだ。そしてその真偽はすでにつき、この場の面々も正しいと認めている。
 俺は蟀谷を押さえる手にますます力を込めて眉根を寄せた。

「その点については我々もさらに調査を進めたところ、興味深いことが発覚しました」

 緋夏の低音の男声が俺の血液が激しく流れ込む頭蓋に不愉快に響く。
 ガンガンと骨の内側から叩かれるような不快音は、同時に確かな痛みを伴って俺を苛み続けているのだ。

「うん? なんだよ、出し渋るな。俺は今イラついてるんだ」

 事実、俺の頭痛は能力を行使し始めてから強くなる一方だ。
 脳内を駆け巡る様々な情報、まさに縦横無尽に走る太さの異なる糸を解いては結ぶような作業は、俺の精神を摩耗させ、そして焼き切ろうとしている。そしてそれらは、一度たりとも間違えることを許されない繊細なものだった。
 俺はそれらを思考する脳とは別の次元で正確に紡ぎながら、新たな情報を脳に流し込んでいくのだから、見た目以上に過酷なのだ。それが俺に可能なのは、同時思考演算系に特化した『門番』としての最低限の素養があるからで、同時にまさに最低限のそれしかない俺にはかなりの重労働なのである。
 俺はそれでも必死に情報を整理しながら、不意に自身の絶対者たるヤマトの顔を思い浮かべた。それは、別に痛みからくる逃避ではなく、純粋に「そういえば」と思い出したことがあるからだ。

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