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Lv.0-39

「そんなのはどうでもいい! とにかく俺を抱えて逃げろ未来!」

 目前のヤマトは、確かに無能状態でも常人より―――少なくとも俺よりは―――桁外れた強さを持っている存在だけれども、能力ありの未来を相手には分が悪いに違いない。
 たとえヤマトが能力を展開していても、未来は後れを取らないくらいには強いのだから。
 そして強いからこそ、俺を助けに来ることができるし、今も生きて存在していられるんだ。
 とにかく、完全に有利な今の状況下で逃げる以外に俺の生きて帰る道はない。突っかかる暇があるなら俺を連れて逃げろ未来!

「あぁ? 何言ってんだよ、今日という今日はこいつをだな」

「つべこべ言わず言われた通りにしろ!」

 未来が非難めいた声音で続きをぐだぐだ言う前に俺は遮るように叫んだ。それに未来が「なんなんだよ…」と小さく零したが、無視だ無視。
 ああ、抱えられた状態だと時計が見えない。あとどれくらい時間が残っているんだろうか。焦燥で俺の精神が焼き切れそうだ。
 
「こら彼方、ずるいぜーそんなの」

 ヤマトといえば、再び何処からか取り出したナイフを片手に俺にそう言い放つ。

「そんな駄犬なんて放って俺だけと遊んでくれよなー」

 ヤマトの『駄犬』発言に俺を抱えたままの未来が「なんだとこのクソ野郎!」と突っかかる。
 この二人は非常に仲が悪い。犬猿の仲というやつだ。ちなみに、『昨日引っ付いてたあいつ』も未来と同意語である。
 しかし引っ付くのも仕方ないだろう、相棒なんだから。
 それにヤマトが言うとあれだが、別に何も疾しいことをしていたわけではない。
 ただ肩を組んだりしていても相手が未来だとヤマトはすぐにそういうのだ、いちいち面倒くさい男で嫌になる。
 しかしそれよりも、その前にヤマトの言葉の中で聞き捨てならない言葉があったぞ。『ずるい』って、それ、お前が言えた言葉か?

「ずるいのはお前のほうだろ! それに俺は『誰かの力を借りちゃ駄目』なんて約束してないからな!」

 俺は未来の小脇に抱えられながらヘッヘーと笑って言う。
 圧倒的に有利な状況下だからこそできる行動だ。普段はできるはずがない。
 まさに今の俺は虎ならぬ未来の威を借る狐だ。でもいいじゃないか、たまには。
 しかし、そういった途端に整ったヤマトの表情が凍ったものになる。
 形のいい眉が若干顰められ、猫目がちの双眸はギュッと上がって、薄い唇が口角を落とした。
 一気にヤマトの纏う空気が変わる。
 目に見えぬ冷気のようなそれが、俺の身体を突き抜けてぶるりと震えが走った。俺の中に一気に広がる緊張感は、過去の経験からくる、警鐘だ。

 ―――危険だ、逃げろ、という、本能。

「…っとにかく、早く行け馬鹿未来!」

 俺はヤマトから感じられた重苦しい緊張感から解き放たれたくて未来の腕をばしばしと叩いた。
 一刻も早く、この場から立ち去らなくては、まずい、そう思った。


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