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Lv.2-152
 しかし、俺はその見慣れない―――おそらく誰もが絶賛し、見惚れるようなそれに眉を寄せた。俺の中にあるのは、違和感となんとも言えない不快感だったからだ。
 何か違う、ただ、純粋に嫌だと思ったのだ。
 そして俺は、唇が自然とそれを口に出していた。
 
「変な格好」

 その言葉に、ひとつ瞬きしたのは目前のヤマトだった。ヤマトの端正な容貌に乗った表情、それはあの胡散臭い笑みでもなければ、何を考えているかわからないそれでもない。僅かに見開かれた双眸の緑は、素直に面食らったといった様子で俺を映していた。
 素で驚いたような、珍しいそれ―――いや、違う―――俺は脳内でそう否定した。
 違う、それは昔、まだヤマトを更沙ヤマトと知らなかった頃、ただの『ヤマト』が時折していたものと同じで―――。
 俺はハッとした。
 そしてそれを自覚した瞬間、急激に寝起きの心拍数が跳ね上がる。
 ドッドッドッと、急激に拍動を速めた心臓が痛かった。薄い胸の下、心許ない肋骨の中で必死に俺という命をつなぐその塊が、きゅうと締め上げられては膨らんで、俺は呼吸を忘れてしまう。
 目の前が真っ赤に染まり、それが苦しくて俯けば、ブランケットの色が赤く染まった。目の奥が痛い。鼻の奥がツンとして、顎が震えた。こんな痛み、俺は知らない。

「彼方?」

 ヤマトの声が聞こえる。
 俺は顔をあげなかった。ブランケットは未だに本来の色とはちがうそれで俺の網膜に焼きつく。この色を、俺は知っている。あの、本当ならば肌寒くて長くいたくなどない、けれども二人だったから我慢できた場所、背を凭れたコンクリートのビル群、その色だ。
 
「どうした? なにかあったのか?」

 ヤマトの、常とは違う声が聞こえる。
 固いそれは、間延びしてふざけた音調のいつもの声とは違う強いものだった。それでいて、俺を案じる色を乗せて探るような音階。
 それが俺には苦しい。聞きたくないと思ってしまう。違う、そう思わなければならないのだ。
 俺は顔をあげた。
 視界の中、ヤマトはその腹がたつほど整った顔で、ただ俺を見ていた。その瞳には俺以外は存在していない。俺はそれにますます苦しくなって、そしてあまりにも懐かしくて、ハッと息を吐き出した。
 駄目だ、これは駄目な思考だ。

「……別に、寝ぼけてただけだよ」

 俺は近くにあったヤマトの、その見慣れない、いやな気分になる絢爛な装飾で眩しい胸を押し返し、片手で額を押さえた。鈍く痛む頭が、心が、それを近くに置きたくないと身体に指示を出しているようだった。
 そして落ち着こうと再び顔を俯けて視界からヤマトを排すると、俺は先ほどよりも大きく息を吐き出す。

「……彼方」

 そんな俺に対して納得がいかないと、わかりやすいヤマトの低い声が聞こえた。聞こえたが、俺はそれを無視する。
 ただ心臓の裏側が痛くて、辛くて、悲しかった。


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