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Lv.0-38
 それにしても、俺が登れないのはもうどうしようもないので仕方ないとして、未来は『透過(ダイブ)』という能力で登ってきたのに、ヤマトの場合は能力なしの天然だ。まさに自力。クソ、本当に恐ろしい奴め、どんな身体してるんだ。いや、別に知りたくもないけど。
 ちなみに未来は俺の仕事仲間で、運び屋の俺の相棒というところだ。いやむしろ用心棒、護衛のほうがあっているような気がしないでもない。うん、むしろお守のような…。いや、止めよう、とにかく未来は相棒だ。
 とにかく、非力な俺に対して非常に優秀な未来は、幾つかの高レベルの能力を保有している。
 そして俺を助け出すのに使った『透過(ダイブ)』という能力もその一つだ。
 これは物体潜行を可能にするもので、レベルによって潜れる物質に差はあるが、基本は物質内をまるで水中のように移動できる。
 ただし、これは物質と自分自身を構成する分子を同調させて潜り込んでいるだけで、物質内部で呼吸はできないため、使用時間に制限があるらしい。つまり本当に潜水みたいなものらしい。
 その上、能力者以外を物質内に潜行させるのは難しく、服などもレベルが低いと同調させられないため出てくるときは非常に恥ずかしいことになるようだ。つまりは裸体。
 しかもレベルが低いと同調できる時間も短いから、潜ったと思ったらすぐに裸体で再登場。これを笑わずにいられようか、いや、いられない。
 未来はこの能力のレベルが8なのでそんなことになった例はないらしいが、そうなったら指をさして笑ってやろう。それこそ思いっきりな。
 相棒たる俺がそんな酷いことを思っているとは露知らず、未来は登ってきたヤマトを警戒して、俺を抱えたまま―――ここで、どうやら持ち運び易さの点からか小脇に抱えなおされた。荷物扱いされている、後で覚えてろよ―――舌打ちすると素早く背後へ距離をとる。
 俺はタタンという未来の動きに合わせて揺れながら、必然的に俯く視線の延長線上、うっかり下を見てしまってくらっとした。
 た、高いぞ、予想以上に高い場所だここは。うっかり落とされたら間違いなく死ぬ。衝突死なんて嫌過ぎる。
 しかし、衝突死のその前に、より大きな危機が迫っていたようだ。
 後ずさった未来の動きに合わせてヤマトが隠し持っていたナイフを投げてきたからだ。
 ヒュンと、風を切る音しか聞こえないそれは、超高速だ。ナイフが刺さって死んだら刺殺っていうのか、この場合は。投げられたものだけど。いや、それよりもやばくない?
 無駄に働いた思考回路とは裏腹に、俺はヒィと悲鳴を上げる暇も、身体を捩る暇もなく、そのまま鋭い切っ先が肌に突き刺さると思われた。
 しかし、それは俺に届く前に未来が素早く差し出した手によって視界から消えた。
 ナイフの行方といえば、未来の俺を抱えている反対の手の先、50cmあるだろうか、それくらいの近距離にあった。ただし、そのナイフはコンクリートにめり込むように『落ちて』いた。
 それは『重力制御(グラビティ)』という未来の能力による回避行動だった。
 『重力制御(グラビティ)』は文字通り特定の範囲の重力を制御できるもので、これもレベルによって範囲や効果、威力が異なる。
 瞬時に小さな目標物を的確に捉えて展開できる未来は、これまた高レベルの能力者なのだ、ムカつくことに。

「あぁ? なに武器なんて使ってんだよ。舐めてんのか」

 未来は腕を下し、ナイフを投げてきたヤマトを睨みつけてそう不機嫌に言った。
 それにヤマトは何も言うことなく、ただまた小さく舌打つ。
 …そうか、ヤマトは今、能力が使えないんだ。俺と『約束』しているから。
 俺はそれを思い出して抱えられたまま未来に向かって叫んだ。今を逃したら後がない。


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あきゅろす。
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