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Lv.0-4
 身構える俺に対して、当のヤマトはあは、と笑い声を上げた。

「『仕事』お疲れ様、大変だったー?」

 小首を傾げて尋ねて来るヤマトに、俺は若干目を見開く。顎を引き、だらりと下げていた拳を硬く握って、動揺を隠すようにそれを背後に隠した。
 そんな俺に構わずヤマトは饒舌に言葉を紡いでいく。

「この前会いに行ったらもういないって言われて俺焦っちゃったよー」

 せめて言伝くらいしてってくれよなー、と相変わらず語尾が延びる口調で言うヤマトに、俺は苦虫を噛み締めたように顰め顔になった。

「でも会えたしまぁいっかー。ここら辺通るかなーって勘で張ってたんだけど、俺ってばラッキーだね!」

 勘だけを頼りに、狭くない北ブロックでこの場所を選んだのならばヤマトは相当の『幸運』(ラック)の能力者であるが、実際はそうではない。
 少なくとも、ヤマトが突出した幸運能力を持っているという話を俺は聞いたことがなかった。
 そしてそんな曖昧な情報よりも、確実なことが俺の中にはあった。
 ヤマトは、一見して口調やその外見から軽く何も考えていないおちゃらけた単純そうな印象を受ける男だ(と、俺は思う)。
 しかしその実、内面は酷く複雑で、残虐かつ狡猾な男だ。
 それを悟らせないところが輪をかけて恐ろしい男でもあるが。
 つまり、この男は、俺が寝座(ホーム)を変えたことに気付いて、北ブロックから次に移り住む確率の高い場所を割り出していたということだ。
 それは俺が請け負っていた『仕事』の内容すら知ってのことだと思う。
 何故ならば、俺がこの北ブロックの端―――どちらかというと東ブロック寄りの端―――にホームを据えたのは、その方が仕事上都合がよく、尚且つ『普通』の東ブロックの住人は格下の北ブロックに近付きたがらないため、ブロックの境界近くは住むには意外に穴場だったためだ。
 他にも諸々の因子が重なって選ばれた場所であったが、それらを総括して、目の前に悠然と近づいてくる男はこの場所を待ち伏せ場所に選んだのだ。

 つまり、それだけの情報量を収集する術があり、尚且つそれを処理する頭脳があるということをそれは示している。

 そんな男が『偶然』(アクシデント)を喜ぶはずがない。これは、この偶然はそれこそ俺にとっては最悪のアクシデント(災難)だ。望んでもないのにやってきたんだからな。
 そもそも、こんな一凡人を相手になにをやってるんだと思うのだが、聞いたところで何も始まらないし終わりもしない(が、かつて一度死ぬ気で聞いてみたら「楽しいからかなー」というふざけた回答が返って来たので、流石にブチ切れて窮鼠猫を噛むを実地で経験してしまいました)

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あきゅろす。
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