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Lv.0-34
 ヤマトはパーカーに突っ込んでいた片手を出して、最初に出会った時のようにヒラヒラそれを俺に振ってきた。
 俺はそれに何を返すでもなくぐっと唇を噛む前歯に力を込める。暢気なヤマトのその動作が、かえって俺を恐怖に陥れた。
 けれども、ヤマトは俺の放つ緊張感を孕んだ空気もなんのそので、ふと目前にどんとそびえ立つ―――いや、横たわってるというか、周囲をなぎ倒してるというか―――ビル壁とその壁の前で座り込んでいる俺を交互に見てから口を開いた。

「んー、この壁で前に進めなかったんだ?」

 そしてそう判断を下した。まぁ、その通りだから何も言わないけどな。
 ヤマトは「そっかー」と何やら納得した様子で頷く。

「可哀相に、彼方じゃこの壁登れないもんなー。…俺ならいけるけど」

 最後に付け加えられた言葉はなんだ。自己申告しなくてもいい。わかってた、お前が化け物染みた奴だってことくらい。
 俺はチッと舌打ちし、重い手足を動かして何とか立ち上がる。ふらつく身体はすぐ後ろの壁に寄り掛からせてなんとか崩れないように保った。正直、マジで辛い。膝ががくがくとみっともなく震える。
 けれども、そんな姿をこの鬼男に曝したくはなかった。必死に足の裏に力をこめて2足立位を保つ。や、でもマジ辛いんだって。
 冷や汗なのか脂汗なのか、とにかく嫌な汗が全身からぶわっと吹き出すのを感じる。そんな俺に構うことなく、ヤマトはずんずんと近づいてきた。くそ、本当にこのままゲームオーバーなんて嫌過ぎる。
 ヤマトは無駄に長い足を前に進ませて、俺ににこりと笑いかけると口を開く。

「あぁでも良かったー見つかって。やっぱりこの辺は彼方のほうが詳しいし、撒かれちゃったかと思って焦ったー」

 それに、俺は負け惜しみと分かっていて口を開く。

「…っこの壁さえなけりゃな!」

 なんでもいい、とにかく時間を稼ごうと思った。もうきっとそう時間も残っていない。鬼ごっこは『見つける』だけじゃだめだ。『捕まえる』までが鬼ごっこなんだからな!
 そんなささやかな抵抗を試みた俺は、次にヤマトの口から飛び出た言葉にうっかり前へつんのめりそうになった。

「あ、その壁ぶっ壊したの俺なんだー」

 実はねー、と照れたようにいうヤマトを、俺はうっかり目を点にして見てしまった。いや、だってだって!

「昨日ちょっと機嫌悪くてさー。通りがけにうっかりぶっ壊しちゃったー」

 …なんだって?
 俺がその言葉を理解するには数瞬必要だった。
 なんだ、つまり俺の完璧だった(はずの)逃走経路は、ヤマトの『うっかり』によって覆されたということか。そういうことか。
 しかも、その結果がヤマトとしたら棚から牡丹餅、所謂棚ぼた的なことになったと。
 なんてこったい。


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