Lv.2-49
びゅん、と耳介で風の抵抗を感じた。それと同時に、足元からは爆音と砂塵を伴う爆風が一気に俺を襲う。
何だと叫ぶ暇もなく、俺は駿河に抱えられ、爆発が起きたその場所からおそらく上方に飛んでいた。ちなみに俺が飛んだわけではなく、俺を抱えている駿河が飛んだわけだが。あと片手で抱えられているせいで脇腹に食い込んだ腕が痛い。薄い腹が圧迫されて苦しくて仕方なかった。
しかし、それに文句を言う間もなく駿河は「あーあーしつこい奴らだなぁ」と吐き捨てると、隙間なく建ち並んだ―――元は民家だったのだろうが、打ち捨てられた今では手を加えられて立派な商店と化している―――建物の屋根目指して自由落下を始める。そうか、飛んだわけではなく跳んでいたわけだな。
けれどもそんなことはどうでもいいことである。どうなるんだ俺は。駿河のことはどうでもいい、俺の身の安全が心配だ。
そしてスタンとそこに降り立った駿河は「こりゃ後でアズルがうるせぇなぁ」と呟いてから「カナちゃんだいじょーぶ?」と脇に抱えた俺に問うて来る。
アズルって誰だとか全然大丈夫じゃないとか一体どうなっているんだとか、色々言いたいことはあったけれども、口を開こうにも開いた唇に砂塵が入り込んで気持ち悪い上に唇が震えて上手く喋れなかった。辛い。
「っま、カナちゃんになんかあったら俺が殺されちゃうんだけどね」
上手く喋れない俺を脇に抱えなおし、駿河はそう言った。いや、だから大丈夫じゃない、と俺は言いたいのに、それを許さないようにまた下から爆音が轟く。なにかが崩れるような音と人の怒号と悲鳴が遅れてやってきて、俺は駿河に抱えられたまま眼下に目を向ける。
「なっんっ!」
現状を把握しようとして、身を乗り出そうとすれば、グイと駿河に再度強く抱えられて「うっ!」と呻く。痛い。
しかし、それにもめげずに、とにかく小脇に荷物のように抱えられた俺は必死に現状の把握に努めた。体勢から、下か前しか見えないわけだが、それでも見ないよりはましである。
そして、そこで俺は目を見開いた。俺が追い詰められて転ばされた路地裏は、今やコンクリートの壁が崩され、それによって舞い上がった細かい塵が視界を奪っていた。あそこに転がっていた3つの死体はどうなっただろうか、想像もしたくない。
俺が駿河の脇の下でブルリと身体を震わせれば、駿河は「震えちゃってかわいー!」と場にそぐわない声音で笑った。殺したい。
けれども、結局俺はコイツへの殺意よりも目視できない敵から向けられる確かな殺意にごくりと唾液を飲み込んだ。駿河もそれを敏感に感じ取ったのだろう。俺を抱えた腕に力を込めた。
「ったく…舐めてんじゃねぇぞクソ野郎どもが」
そしてそう、先程まで俺をからかっていた声とは一段と低い声で駿河は吐き捨てる。
ゾワリと背筋が凍った。殺意の滲んだそれは俺ではなく、眼下に向けられているが、それでも恐ろしいことには変わりない。
「―――駿河様!」
俺が内心ビクビクしていると、不意に背後から駿河を呼ぶ声が響いた。同時に、すぐ近くで人が降り立つ軽い音が鼓膜に届く。
俺はハッとしてそちらに視線を送った。しかし、駿河の身体が邪魔でその存在を視認することはできない。恐らく『監視者』の一人なのだろうが、この際どうでもいいことだ。
俺としたら、早く安全な場所に連れて行って欲しかった。こんなところにいたら死んでしまう自信があった。
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