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Lv.2-48

「っ嫌に決まってるだろ! 離せ!」

 俺は声を荒げる。そして駿河を振り解くために、駄目元で腕をまた強く振った。
 しかし、駿河はそれにも「ハハハ」と笑って俺の力を受け流す。ふざけたように俺の手を握っているそれを俺の動きと共に振り回す。その上、離す気は微塵もないようでぎゅうと握り締められて痛い。酷い、ふざけてる。

「そこをさ、うんと言って? いいじゃん、ヤマトもすっごい楽しみにしてるんだけど」

 ね? と首を傾けて駿河は俺に伺うように言う。その動作で薄暗い裏道にキラキラと煌く銀糸が今の俺には憎らしくてしかたない。全部毟り取ってしまいたいほどだ。大体、俺はヤから始まってトで終わる男の名前を聞きたくはなかった。

「俺はっ! まったく! 楽しみじゃない!」

 俺は大声でそう主張した。そうすれば、握られた手に力が篭る。

「…っい!」

 それに、俺は動きを止めて顔を歪めた。噛み殺し損なった苦痛の声が歯列を割った。
 勿論、手加減は十二分にされているのだろう。ギシと軋むものの、骨自体は無事なようだから、本当に、少しだけ力を入れられただけなのだ。俺は本当に弱い。

「そんなこといわないでさ、頼むって。ヤマトに怒られんの俺なんだからさ」

 駿河は既に握り締めている俺の手にもう片方の掌を重ねると、俺の動きを封じて「カナちゃん頼むよ、うんって言って」と俺にまた言った。しつこい。頼まれても誰が首を縦に振るか。
 というか、駿河はたまにこういう問いを俺に向けてくる。どちらかといえば向けてこないときの方が多いけれども、そういう時は大抵俺の意識は既にぶっ飛んでいて、気がついたら小脇に抱えられている上に、北地区の一角で踏ん反り返って待っていたヤマトの元に運ばれているのでどうしようもないのだが。あれは悲惨だ。酷い。
 駿河に捕まって意識を失ったかと思えば、次に起きたら目の前にヤマトがいるなんて体験、何度しても慣れやしない。慣れたくもない。…それくらい簡単に捕まりすぎなんだけどな。相手が悪すぎるんだ、しかたない。
 しかし、俺は駿河に件のように問われてそれを了承したことはない。したら最後、なんだか恐ろしいことになりそうだからだ。
 本能的に俺は危機を察知している。普通に浚っていけるにも拘らず、あえて俺にそう『乞う』というしち面倒くさい手順を踏むくらいだ、とんでもない結果が待っていてもおかしくはない。
 それでも、駿河はなおも「カナちゃんまじ鬼畜、俺ヤマトに殺されるし!」と言って俺の手をぎゅうぎゅう握り締めてくる。
 しかも泣き真似つきだ。無駄に整ったその容貌を歪めていた。痛い、痛すぎる、言動が。

「っ知るかよ…! なんなんだよ…、離せって…!」

 俺は意味のわからない駿河の行動に身を捩る。駿河は泣き真似をやめた。不意に顔を上げる。
 そして「カナちゃん」と今度はふざけた声ではないそれで俺を呼んだ。
 瞬間的に俺たちの周りの空気が冷える。それは、温度的なものではない。
 緊張と殺気を含んだものだった。
 なんだ、と思う俺の目前で、駿河がフッと口元を上げる。そこには、もはやふざけた色はなかった。
 そして、次の瞬間には爆音が鼓膜を打っていた。
 ついでに、俺は空を飛んでいた。どういうことだ。


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