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Lv.0-28

「…っは…」

 噛み締めていた奥歯を離すと、思わず詰めていた空気の塊が喉奥から零れ落ちた。
 ただ只管、ガンガンと脳に集まった血流が勢いよく細い血管を通り抜けていくような激しい痛みが俺を襲う。
 それと共に目の奥がぎゅうと絞られたような感覚に陥って俺は目頭をグリグリと揉んだ。
 俺は自慢じゃないが、能力の使い方が下手だ。うん、自慢じゃないな、これ。
 でも、だって疲れるんだ、物凄く。
 最大半径150メートルの範囲に、目に見えぬセンサーを飛ばし続け、常に周囲を見張るなんてことをしたら、自分の能力だが俺は狂ってしまう自信がある。
 まぁそんな集中力は続かないからアレだけど、それでも限界を超えて続ければ、頭の方がやられてしまうだろう。
 俺の能力は、簡単にいえばセンサーで入手した相手の位置、周囲の地理を脳内で合致させる。その複合情報処理は、精神系能力の特徴だ。
 能力の系統は大別すると精神系と肉体系がある。
 そこからまた色々分けられて訳がわからなくなるんだけど、とりあえずこれだけ知っていれば間違いない。
 ちなみに肉体系の能力は、そのままずばり、脳で考えるのではなく、肉体そのものを利用する能力が当てはまる。肉体活性能力がまさにそれだ。速く走れたり凄い腕力だったりするやつ。
 肉体系能力の能力使用後に出る症状として第一に疲労があるが、精神系能力は情報処理をする脳にダメージが来る。
 眩暈と貧血の時に似た一瞬の脱力感が襲ってくるのが常で、酷い時は脳が情報処理の負荷に耐え切れなくなって失神、最悪、廃人、死んでしまうことだってあるんだ。恐いよな…、俺は死にたくないので、無理はしない。
 だがしかし、無理はしない主義でも、物事によってはしなきゃならないときもある。
 今回がそれだ。
 なにが何でも逃げ切って無事帰宅してやる。
 俺は再度、グッと瞼を瞑って周囲の熱源を探る。流石に最大まで範囲を広げられないので、100メートル程度で留めておく。
 しかし、脳内に浮かぶ人の形に変化はない。
 クソ、と俺は内心吐き捨てた。
 最大150メートルの範囲なんて殆ど意味がない、むしろ能力を使わずに体力温存した方がいいんじゃないか、と俺は思い至る。その方が効率がいいのかもしれない。
 しかし、そうした場合、篭城は酷く危険だ。
 なんたって、隠れ篭った要塞は、ヤマトの打撃一つで簡単に崩れてしまいそうなほど脆い。
 いや、マジで崩れる。生き埋めになる。圧死する。コンクリートって重い。
 まさに砂の船に乗った気分だ。
 俺はどうしようかと悩みながら腕に嵌まった時計に、本日何度目かの視線を落とす。
 無情にも、時計は前に見たときから1分半しか時間が経っていないことを示していて、俺は項垂れた。
 残り8分半、それが地獄だ。
 とりあえず残り7分くらいまでは大丈夫だろうからと能力を停止して余力を残す篭城作戦に移ることにする。
 能力を使わないと『約束』した手前、ヤマトもそう簡単に俺を見つけることはできないだろうと踏んだからだ。
 俺はよしと気合を入れて埃の溜まった床に腰を降ろして、能力を使わないかわりに少しの物音も聞き逃さないように神経を集中させる。
 しかし、そんな俺の行動も、直ぐに中断させられることになった。

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