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Lv.2-46
 しかし、痛みは何時まで待っても訪れなかった。
 恐る恐る瞼を上げれば、俺の目に映りこんだのは―――額からナイフを生やした男の姿だった。ドロリと赤黒い血液が濁った眼球の端から流れ落ち、どさりとその体躯が傾いで汚い地面に倒れた。

「ッヒ…」

 俺は喉を震わせる。一体なにが起きたのだと周りを見れば、残る2人の男たちが一方方向を向いて身を固めていた。その汚い面には恐怖がこびりついている。俺はさらに男たちの視線の先に目を向けた。
 視界に映ったのは、銀色だった。薄暗い裏道でなおキラキラ煌く銀色の髪を持つ男―――『門番(センチネル)』の駿河だった。

「なにやってんの?」

 駿河の声が静かに響いた。駿河の手には2本のナイフが握られていて、俺を襲おうとした男に生えているナイフは駿河が投げたものだと悟る。俺は助けられたことに安堵しつつ、しかし結果的にさらに湧き上がった恐怖に身をぶるりと震わせた。

「やっほーカナちゃん、元気してた?」

 場にそぐわない駿河の陽気な声が俺にかかる。

「でも見るからに元気そうじゃないなぁ、いや、元気だからこんなことになったのかい?」

 そう続けて駿河は器用にナイフを掌で遊ばせた。怖い。
 そして俺がお前は黙ってろと駿河にいう前に、硬直していた男たちが無様に震えた声を発した。

「『門番(センチネル)』だ…」

 俺のことは知らなくても、きっと『門番(センチネル)』のことは皆知っているだろう。
 『門番(センチネル)』は他者と異なる特有の形質を持っているからだ。それが、眩い銀色の髪だ。銀髪は『門番(センチネル)』の素質―――『隔絶(フィール)』を使える素質のある者にしか現れない。

「な、なんで『門番(センチネル)』が…っ」

「そうだ、なんで…っ」

 その言葉に、駿河は自身の銀髪を片手で弄って答えようとしない。ただ、「あーめんどいのがいたんだっけ」と零したと同時に、持っていたはずの2本のナイフは駿河の元を離れていた。
 そして、次にはどさりと言う音が俺の耳に届いた。
 音のほうに視線を向ければ、その視界に映ったのは、額にナイフの生えた男二人の姿だけだった。第一号と同じようにどす黒い血液を垂らし、小刻みに指先を痙攣させ、しかしそれもじきに止まって生命活動を完全に停止させた。死んだのだ。
 俺は、その命の消え行く様から、目が離せなかった。

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あきゅろす。
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