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Lv.2-44

 仕事も済んで懐が暖まったので、どうせなら少し贅沢をしようと―――否、ちょっとばかり俺も未来に『お土産』を買ってやろうと俺はスラムの端のマーケットに向かった。
 そこは昨日行ったばかりのブラックマーケットだ。未来と行った店はとてもじゃないが行けないけれど、絶賛節約生活中―――常に、だけれども―――の俺でもいける店も中にはある。その内の俺の行きつけの店は、少ない金でもそこそこの物が手に入る店だ。ただし、店主がやたら気紛れで開店と同時に閉店に切り替わることも多々あるせいで、タイミングを逃すと本当に無駄足になることもしばしばだ。
 その店は大小の店が軒並み揃えるマーッケットのちょうど裏側にあるせいで、知る人ぞ知る店だったりする。実はミツハさんに紹介してもらって知った店だった。
 俺は行き慣れた道を行き交う人を掻い潜って進む。そしてメインストリートから裏道に出るために人気の少ない横道に入った。
 次の瞬間、俺は急に腕を引かれて前のめりになる。

「っうわ!」

 俺は驚愕に声を上げ、そしてハッと腕を引いた人物に顔を向けた。

「そんなに急いで何処行くんだぁ?」

 そしてかけられた言葉はそんなものだった。その声に続いて「んなのお使いだろーなぁボウズ?」と掠れた濁声が響いた。

「じゃあ金あるよなぁ?」

 そして最後にそう締めくくられる。
 俺の視界に映ったのは、明らかにチンピラ風情の男3人だった。3人とも中肉中背、濁った眼球の嵌った醜く歪んだ顔で片端だけあがった唇からは眉を顰めるくらいのアルコール臭と口臭が漂う。気持ち悪さに鳥肌が立った。
 こいつらは人から金を巻き上げる、弱者を踏み躙ることに何の罪悪感を抱かない最低の人種だ。こいつらは、自分を強者だと思い込んでいる思い上がりで、けれども俺は、そんな思い上がりにすら屈してしまう弱者だった。

「…っはなせよ」

 俺は掴まれた腕を振り解こうとする。
 大抵のやつは俺が一応、第8地域代表のヤマトの『お気に入り』だという認識を持っているせいで手を出してきたりはしない。俺を人質に楯突こうとした馬鹿なやつもいたが、そいつらは俺の首を掴んだまま見るも無残な形で…いや、やめよう、思い出したくない。
 とにかく、そうして殆どの人間が俺を避けて通るが、しかし、中にはそういう情報すら持たないやつもいるわけで、俺はそういうやつらにとって格好の鴨なのだろう。どうせ弱そうだよ。

「あぁ? 金出せよ、持ってんだろ?」

 腕を掴んだままの男がグイと俺の腕を引いてギリギリと力をこめた。
 グッと奥歯を噛んで俺は悲鳴を噛み殺す。このくらいは耐えられる。こういう類の連中は、他者を傷つけることに快感を得る変態が多いのだ。そういうやつらを誰が喜ばせるものか。

「ってめぇらにやる金なんて持ってねーよ!」

 俺は思い切り腕を振って拘束から逃れた。ジンジンとする腕の痛みに眉を寄せるものの、すぐさまその場から走り逃げる。止まったらおしまいだ。それくらいは、わかっていた。


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