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Lv.2-43
 ともかく、今回も例に違わない内容の依頼を受け、俺は自慢の足で誰にも邪魔されることも無く荒廃した地面を駆け抜けた。
 途中で小競り合いに遭遇して肝を冷やしたが、それも回避してそそくさと先を急ぎ、そしてそれを目的の人物に手渡すことができた。
 俺はこの瞬間が、この仕事で一番好きだったりする。
 相手はそれに大層喜んで、それを見た俺もなんだか嬉しくなった。
 この仕事は、こんな俺でも誰かを喜ばせることが出来ると実感できるから、本当に就いてよかったと思うのだ。
 そして受領の示しを受け取って、弾んだ心を示すように足取りも軽く、俺は依頼人の元に戻った。前金は既に貰っていたが、残りの報酬金を受け取るためだ。
 そもそも俺の仕事は『運び屋』という配達業であり、単純に物を届けるというものなのだが、確実に相手に物を届け、そして相手がそれを受け取ったという証明を依頼人に示す必要がある。
 そのため、報酬は前金と完遂後の2回払いなのだ。面倒くさいが、信用たることを示さなければこの仕事は続けられないのだ。
 そんなわけで仕事を長引かせること無く、むしろ何時に無く早く終わらせ勇んで依頼人のもとに戻った俺に、依頼人の爺さんは「よくやった」とこれまた何時に無く柔らかい労いの言葉をかけてきたので「当たり前だろ」と返せば軽く頭を叩かれた。
 このクソ爺、と思っても言ってはならない。金さえ絡まなきゃ一発や二発ぶん殴っているところだ。…もしかしたら爺さんのほうが強いかもしれないけれど。
 とにかく俺はそれでも爺さんから報酬金を貰うことができた。

「ん? なんか多くね?」

 けれども、ふと金のはいった封筒のなかみを確認して俺は声を上げた。それに、依頼人である爺さんは「今日は頑張ったようだからな」と俺の小脇を突く。それにうぐっと呻きながら、俺は内心湧きあがる歓喜を隠すように「まぁありがたく受け取っとく」とだけ素っ気無く返した。
 それに爺さんは大きな笑いを零したので、俺はなんだか恥ずかしくなって踵を返した。くそう、完全に読まれている気がしてやり辛い。

「おい彼方」

 そんな思いの俺の背に、爺さんがまた声をかけた。俺は首だけ回して振り返る。

「また頼むからなー」

 俺はその言葉に目を瞠って、それから口元を僅かに緩めた。
 そして「おー」と素っ気無く片手を上げてそれに返し、俺は顔を正面に戻す。心のうちだけに抑え切れなかった思いが滲んで弛んだ顔を見られたくなかったからだ。
 だって、嬉しいじゃないか。
 弱くて殆ど役に立たない俺に、そういってくれるのはあんたぐらいなんだ。だから、割に合わないあんたの依頼を毎回受けてるんだぜ、と俺は心の中だけで呟いて、まっすぐ前を向いて駆け出した。
 足取りは、とても軽かった。


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あきゅろす。
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