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Lv.2-38

「―――で、どういうことなんだ」

 俺は未来から料理を取り分けた皿を受け取りながら開口一番にそう問うた。椅子に座り、さて夕飯にしようという時に俺から言葉を放たれた未来は、無言のまま一つ瞬きをするとくしゃりと苦笑する。今日はそんな表情ばかり浮かべさせている気がしたが、俺としても気なって仕方ないのだからどうしようもない。
 未来はフォークを片手に持って「ああ」と口を開いた。俺は受け取った皿をテーブルに置き、完全に話を聞く体勢になる。反対に未来は取り分けた自身の料理にフォークを入れた。今日も見事な出来栄えである。

「なんか侵入者らしいぜ」

 未来は事も無げにそう言い放った。その骨張った長い指で持ったフォークに今日買ってきた赤々として新鮮そうなトマトが刺さる。弾力のある表皮を突き破ってフォークの切っ先がその実質に埋まる様を見つめながら、俺は「侵入者?」と鸚鵡返しに応えた。
 トマトを口に運びながら未来は頷く。そしてそれを咀嚼しながら次に水煮のベビーコーンに手を伸ばした。未来手製のドレッシングを和えて同じように口に運んだ。ああ、なんか見ていたら俺も食べたくなってきた。食べよう、そうしよう。
 俺は未来に倣ってフォークを片手に皿の上に盛られた料理を突き刺した。メインの肉は滅多に手に入らない高級食材だ。太っ腹だな。意外にも柔らかい一口大のそれを俺は口に運ぶ。
 俺の正面で、未来は口腔内を空にしてから「で、その侵入者ってのが他地域の奴らしい」と続けた。俺は肉をもぐもぐと咀嚼しながらそれを聞く。なんだって?
 早々に肉を噛むのを止めて俺は口腔内のそれを喉奥へ飲み込んだ。食道を下っていく肉を若干名残惜しく思いながらも空になった口を開く。

「っちょ、オイ、それで駿河が出張ってたのか?」

 駿河は腐っても『門番』という他地域との連結を司る地位にいるから、先程あの場所にいた理由としては納得がいく。けれども、たかが一介の侵入者相手にわざわざ『門番』が対応するかといえば妙ではある。そういう奴らのために『監視者』がいるのだから。

「まぁそうだろうな…なんだ、あいつがいたの気付いたのか?」

 未来はどこか少し面白くなさそうに俺に問う。僅かに低くなった声に、俺は皿の上で転がったトマトをフォークで突き刺そうとしていた手を止めた。皿の上でトマトが逃げた。くそ。

「ん? だってすげぇ手ぇ振ってたし」

 俺はちらと未来を見上げてから、そう軽く言い放って皿の上のトマトと格闘を再開する。つるつると皿の上を滑るのは、未来手製のドレッシングがかかっているせいだ。美味いんだけど、今は邪魔だ。

「…そうか」

 未来が小さく零した。俺は特に気にも留めずに視線を皿に下ろしたまま「うん」と返す。トマトに狙いを定めて、フォークを下ろす。指先に確かな手応えがあって、柔らかいそれはフォークの切っ先に突き刺さった。俺はそれに満足しながら、ふと脳裏に浮かんだ疑問を口にする。

「でもさ、その侵入者はなんでまたこんな僻地に?」

 俺は言って、フォークに刺さったトマトを口に入れた。僅かな酸味と同時に甘みが広がって美味い。新鮮な野菜ほど貴重なものは無いな。


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