Lv.2-33
「外、なんかあんのか?」
未来はそんな俺を気にすることなく、俺が注視していた窓の外を見やる。その顔からサングラスはとうになくなっていた。赤紫の双眸を細めて区切られた世界を見渡して、それから俺を見下ろす。
「なんもなさそうだけど」
未来はそういいながら首を傾げて俺に尋ねる。それに、俺は渋い顔で答えた。
「…なんか、光った気がしたんだよ」
気のせいかもしれないけど、と小さく付け加えれば、未来は「そうなのか?」と零してもう一度外を見やった。俺も続くように外に視線を向ける。曇った窓に俺と未来が映りこんだ。鏡のように室内を映す窓の向こうは、相変わらず暗闇が広がっている。やはり俺の見間違いだったのかもしれない。
俺ははぁ、と息を吐いて視線を室内に戻した。そのとき、まだ外を見ていた未来が声を荒げた。
「なっ…!」
その声に俺は未来を、そして窓を振り返る。そして俺の視界に映りこんだのは、俺の網膜を焼いたのは、あの光だった。あの、俺が見間違いだと思った眩しい光だった。
俺は慌てて窓にへばりつく。隣にいた未来が俺の肩を抱いて、その身の近くに引き寄せた。
「なんだ、あれ…?」
俺は混乱しながら未来と窓の外を交互に見やるとそう呟く。眩い閃光が幾度となく繰り返されて、暗闇の中で廃ビルを浮かび上がらせていた。次第に爆音も聞こえ出して、俺は不安な気持ちで未来を見上げる。
「…なんだってまた、こんなところで…!」
未来はそう吐き捨てると、視線を窓から俺に落とす。そして今度はニコリと俺を安心させるように微笑んで、俺の頭を撫でた。
「…大丈夫だって」
未来はそういうと俺に持っていた空の皿を渡してくる。俺はそれを受け取って未来を見上げた。
「彼方はここにいろよ? 俺はちょっと様子見てくるから」
そして俺を安心させようと笑む未来に対して、俺は小さく頷くことで応える。そうすれば、ますます未来は強く俺の髪を掻き乱す。
「んな顔すんなって、ちょっと見てくるだけだから、な?」
未来はしきりに「大丈夫だから」と繰り返した。それが不安を煽るのだが、未来なりの優しさだとわかっているから俺はおずおずと頷く。そうすれば、未来はあからさまに安堵の表情を浮かべた。
「大丈夫、すぐ戻ってくるって、飯の準備が途中だしな」
だから、と未来は俺の最後の不安を拭い去るようにポンポンと頭を叩く。痛みを伴わないそれは、とても優しい。
そしてその失いたくない掌が、ゆっくりと離れていった。
「じゃあちょっといってくるな」
未来はそういって、今度こそ俺から離れる。その後姿を見送って、俺はまた窓の外を見やった。
光はなおも続いている。爆音と共に眩い光が瞳孔を焼いて瞼の裏に残光を刻んだ。距離は大体150メートルといったところだろう。こんな夕暮れ時に破壊活動に勤しむ人間の考えなどわかりたくもないけれども、嫌な予感ばかりが胸を突いて仕方なかった。
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