Lv.2-31
俺の顔色を伺うような未来の素振りに、俺は仕方ない奴だと小さく笑って口を開く。
「なにビビッてんだよ」
馬鹿だな未来は、俺はそう続けて未来の背中をバンバンと叩く。
ちなみに殴ったほうの拳とは反対側の手だ。実は未だに痛い。もしかしたら俺のほうが馬鹿なのかもしれない。やらなきゃ良かった。
俺は内心でそんなことを思いながらも、それをおくびにも出さずに落ち込んだ様子の未来を叱咤する。
「な、だからこれでチャラな?」
そしてそう言えば、未来は吃驚したように俺を見て、頬から掌をずるりと落とした。
露になった男前の顔はその口元に僅かに赤色を滲ませてはいるが―――というか俺の渾身の一撃は、僅かだけれども未来にダメージを与えられたようだ。むしろそれに軽く感動を覚えている俺は終わっているかもしれない―――男前なことには変わりない。羨ましい。
とにかく、そんな未来ではあるが、驚愕の表情は俺の言葉にだんだんと融解していく。
サングラスの向こう側で赤紫の双眸が細められ、血の滲んだ口角が持ち上がり、そして鼻から抜けるような息を吐いて最終的に破顔した。…そんなに嬉しそうに笑われたら、なんだかこっちが照れてしまうじゃないか。
「…ありがとう、な」
未来が小さく呟いた。俺はそれに頷くだけで返して、そして今度は未来の手首を掴んで引っ張った。
それに未来はまた驚いたように俺を見るが、俺は「口切れてるだろ」と素っ気無く言い放つ。仲直りした相手の怪我を放って置くほど俺は鬼じゃない。
そして俺は『治癒(キュア)』が使えないから、手当ては薬が頼りだ。
そんな俺に、未来は「これくらいすぐ治るから気にすんなって」と苦笑する。俺はそれに眉を寄せた。まぁ、確かにそうだろうけれども、とは思う。ただ、それを作った俺の気持ちの問題というか。
しかし、俺の気持ちの整理がつかないでいる間に、未来は「それに」と爆弾発言を落とした。
「むしろミツハに殴られたとこのがイテェし」
だから気にすんな、と未来は続けたが、俺はそれに目を丸くする。なんだって?
「ちょ、なんだって?」
俺は未来の手首を掴んだまま詰め寄る。それに未来は一瞬しまったという顔をしてから、「や、なんでもない」とすぐさま言葉を否定した。ぎこちなく首を振る様はあまりにも白々しい。
その言い分にぎろりと睨み上げれば、未来はうっと呻く。そして言い辛そうに視線を彷徨わせた。
それに俺はハァ、とわざとらしく息を吐く。そうすれば大袈裟に未来がその広い肩を揺らしたのが掴んだ手首にまで伝わってきた。
俺は構わず未来の手首を掴んだまま、空いた片手で未来の着ているシャツをめくり上げる。強行突破だ。
それに未来が「な、なんだ?」と動揺して声を震わせた。なんだじゃない、と俺は問答無用でそれを胸元まで引き摺りあげる。
そうすれば俺の視界に逞しい腹筋が広がった。そして同時に、痛々しい内出血がちょうど鳩尾のあたりに広がっているのが見て取れた。
綺麗に割れた腹筋が未来自身の呼吸に合わせて浮く。う、羨ましくない、わけではないが、今はそんなことより腹筋の上に出来た痛々しい内出血の痕の方が重要だ。ちなみに、俺の腹は平らである。悲しい。
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