Lv.2-24
そんな俺の欲望を他所に、ミツハさんは俺が先程まで座っていたソファに辿り着くと、そこに残されていた件の手紙を手に取った。
俺はそれを確認して口を開く。
「あいつなんか変な奴でしたけど…知り合いなんですか?」
見た目こそミツハさんや未来とは方向性の違う美形だったが、中身が得体の知れない男だった。小柄な身体に似合わぬあのずば抜けた身体能力は、どこぞの変態を思い起こしてしまってなんだか気分も悪い。
俺のそんな質問に、ミツハさんは鏡の残した手紙を手の中でひらひらと遊ばせながら「あー…まぁな」と歯切れ悪く答える。
それに俺が小首を僅かに傾げると、ミツハさんはフッと頬を緩めて俺に向き直った。
「知り合い…いや飼い猫っつうか…むしろゲテモノっていうかな…」
ミツハさんは手紙片手にガリガリとまた頭をかく。俺ははぁ、となんだかよくわからないけれども頷いた。
鏡は一般的に見てもゲテモノをはいえない容姿だと思うのだけれども、一体どういうことだろうか、言葉のあやというやつか。首を傾げながらも俺は続けた。
「あとその鏡からの伝言なんですが、『本当にごめんなさい、二度と言わないから許してください。この通りあなたの鏡は反省してます。いやほんっとうに、これまじです』っていってましたけど…」
ついでに「あんまり反省してませんでしたよ」と俺は付け加える。それは第三者から見た事実だったからいいだろう。
そして俺はじっとミツハさんを伺った。というのも、あなたの鏡、というその言葉が俺の中で蟠っているのだ。ミツハさんは知り合いもとい飼い猫もといゲテモノだと鏡を評したけれども、実際は違うのではないかという疑心が湧いていた。
ミツハさんは俺のそんな猜疑に満ちた視線に気付いたのか「オイオイ、んな目でみんなよ」と俺を宥めるように言葉を放つ。
「あの馬鹿の言うことなんて真に受けんな、それにあいつはどっちかって言うと『流星(りゅうせい)』のもんだからな」
ミツハさんはそういうとまた俺の頭を撫でてくる。ぐりぐりと撫でられて、安堵するのと同時に、俺はまた新たな単語に眉を寄せた。
「『流星』?」
俺はその単語を舌に乗せてみる。そうして音にしてようやくそれが鏡の言っていた『流れ星』のことだと理解した。
ああ、馬鹿なことを口にしてしまった、と俺は俺の頭を撫でていたミツハさんを上目遣いで見やる。そうすれば、ニコリと不敵に笑むミツハさんと視線が合った。
「そう、めちゃくちゃこえぇし頭はかてぇし飼い猫はみんなゲテモノな『流れ星』さま」
それはなんだかとっても近寄りたくない『流れ星』だ。俺はそんなことを思いながら、ふと湧いた疑問を素直に口にした。
「ミツハさん、そんな人とも知り合いなんですか?」
俺がミツハさんを見上げながらそういうと、当のミツハさんは俺の頭を撫でていた手を止める。そして「不本意ながらな」と小さく苦笑の混じった声音で答えた。
それに俺は純粋にミツハさんは顔が広いなぁと思う。色んな知り合いがいるということは、生きる世界が広いんだろう。俺は、ミツハさんと未来のいるこの空間だけで十分だけれども。
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