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Lv.0-26
 走るたびにカチャカチャと金具の弾けたベルトが腰のあたりで不快な金属音を立て、ジーンズが自然とずり落ちてきて走り難いったら仕方ない。
 腰の辺りでそれをずりあげ、前に進む。
 違和感の拭えない尻の奥のほうが足を出すたびに俺に奇妙な感覚を覚えさせたが、それにも構っている暇などはない。
 とりあえずベルトは弁償させてやる。
 思いっきり高いものを貢がせて、それを売って安いベルトを買おう。ヤマトから貰ったものなんて誰がするもんか。
 いや、それだともう一度会わなきゃいけないよな、駄目だ駄目、それじゃ本末転倒だ。もう奴とは会いたくない。
 そんな、今はどうでもいいことばかり頭に巡らせながら、俺は道ならぬ道―――そう、それは舗装された道ではなく殆ど廃ビルと崩れた瓦礫の間に出来た小道で、もう殆ど元の原形を止めてはいないものだ―――を進んだ。
 そもそも北ブロックで舗装された道路なんて滅多にない。
 住民たちは瓦礫や廃墟、ゴミ捨て場のような場所で、細々と、しかし強かに生活しているのだ。
 俺自身もそれは同じで、瓦礫の上も軽々と跳んで逃げられる。
 反対に言えば、それもできなければ、北ブロックにすらいられない。実力社会って怖い。
 俺は目の前に迫る瓦礫の小山を駆け上がりながら今後の進路を瞬時に判断する。
 西に進めば廃ビル郡という名の裏市場、東に進めば塵処理場という名の強制労働施設だ。南だと元いた場所に戻ってしまうから、選択肢としては残り一つ、更に北に進むとしたら、より荒廃したスラム街に至る。
 俺は消去法で北への進路を辿った。
 逃げ込めつつ、隠れられる場所があるのはスラム街が一番だ。殆ど人のいない場所も多くあるから、そこへ逃げればいい。
 そこへの最短経路を脳内にしまってあった地図から引っ張りだして俺は無駄な動きもなくそれを実行した。
 そう、俺は逃げ足には自信があるんだ。
 逃げ足、というよりも逃げるための経路選択に自信がある、というか。
 北ブロックの地理は頭に全て叩き込まれているから、どの道をどういけばどこに辿り着くか、それが俺には手に取るようにわかるのだ。
 というのも、俺の仕事は『運び屋』とよばれる配達業で、その職業柄、北ブロックの地理の把握は必須だった。
 そして同時に、他の同業者よりもそれが細かく詳しいものだったから、俺はこの地区一の逃げ足の速さを誇る。
 足の速さは、まぁ人並みだけれども、一度裏道に入ってしまえばこっちのもの、殆どの確率で撒くことが可能だ。
 だから、俺は逃げ足だけは、自信がある。
 まぁ、世の中には、裏道を裏道とせずに堂々と壁をぶち抜いて追いかけてくる馬鹿力の変態もいるというだけの話で、殆どは撒けるのだ。殆どはな。


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