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Lv.2-15
 俺は熱いホットチョコレートをちびちびと飲みながら隣に座る未来を横目に伺う。横顔だけでも腹が立つくらい凛々しい未来は、その男前な顔をなにやら難しそうに歪めて手紙を見つめていた。

「…なんか気になることでもあんの?」

 俺はなんだか気になって未来に問う。既に思考を放棄したその手紙について、わかることでもあるのだろうか。
 そんな俺の言葉に、未来は俺の方を向いた。

「ん? …いや、なんでもねぇよ」

 未来はそう口にして、少し困ったように笑った。眦が少し下がって、口元が緩く上がる。細められた赤紫の瞳は照明をきらと反射して宝石のようだった。
 それを抉って飾りたいとは思わないけれども、俺もそれくらい綺麗な色がこの身体のどこかにあればよかったのになぁとぼんやり思う。俺は真っ黒だから鮮やかな色に憧れるのだ。
 未来は苦笑を浮かべたまま、手にしていた手紙を再びソファの上へと放る。ぱさと軽い音を立ててそれは落ちた。
 俺はそれを目で追うことなく、未来をじっと見つめた。
 すっきりした輪郭に、サングラスの乗っていない顔はやはり羨ましいくらい整っていて、これで自分の顔が好きじゃないとかふざけているとしか言いようがない。
 そんな嫉妬と羨望が混ざった眼差しで見つめれば、未来は今度こそ本当に困ったように「な、なんだよ彼方」と口ごもった。
 俺の視線に耐えかねたのか、未来は視線を、少し顎を引いて下方へ、そしてまた俺へと戻し、今度は首を回して反対の方向へと所在無く動かす。落ち着きのない奴だな。
 俺はハァ、と一つ息を吐いた。
 その音に未来の肩が大きく跳ねたけれども、気にすることもなく俺はマグを片手に自分の前髪を摘んだ。
 指の腹に挟まれた黒髪を捩ればじゃりじゃりと音を立てる。潤いがないらしくパサパサとしていた。そう、絶対的に髪まで栄養が行き届いていないのだ。まぁ、未来たちと暮らし始めて大分ましになったとはいえ、それまでの生活が酷かったせいだろう。あとはストレスかな。ああ、嫌になる。
 同じ黒でもミツハさんみたいに艶があるわけでもないし、そもそもミツハさんは色以前に存在自体が眩しい。どこもかしこもなにもかもが綺麗過ぎるくらいだから色なんてなくてもいい、目が潰れる、でもミツハさんを見て目が潰れるなら俺は本望だ。
 そんなことを頬を染めつつ考えていれば、そういえばミツハさんに手紙を渡さなければならなかったのだと俺は思い出した。
 いや、忘れていたわけではないのだが、未来に座っていろといわれた手前、後でもいいかなと思ったのだ。それに、まだミツハさんは夢の中にいるかもしれないし。
 というのも、ミツハさんは結構よく眠る。他地域での仕事中は基本的に眠ることがないらしいから、そのせいかもしれないけれど、俺はそれが少し寂しい。勿論文句なんて言えないけれど、でもやっぱり一緒にいたいと思ってしまうのだ。なんだか切なくなってきた。
 もう一度息を吐き出せば、隣の未来がゆっくりと首を元に戻して俺を見つめてくる。
 なんだと顔を上げれば、未来は酷く戸惑った面持ちで口を開いた。

「か、彼方…俺、なんかしたか」

 そしてそんなことを言う。俺は首を傾げた。

「いや、別に何もしてないけど。…まぁ強いて言うなら、その面よこせというかなんというか」

 ハハ、と言葉尻を濁して言った言葉に、未来は大袈裟に首を振った。
 そして、俺の肩をその大きな掌でがしりと掴んで俺を捕らえる。

「…わっ! っちょ、みら…っ!」

 その掌の力強さに俺の上半身は未来のほうへ持っていかれる。片手に持ったマグの中身は半分以上、既に俺の胃に収まってはいたが、残りがちゃぷんと揺れて危ない。熱いしソファが汚れる。
 けれども、それよりも未来の様子が変だった。


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あきゅろす。
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