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Lv.2-2
 俺のそんな思いは、しかし当のヤマトには全く伝わっていないらしい。
 ヤマトは再び机に上半身を突っ伏すと「もう無理、これ以上は死ぬ。…おい駿河、俺が死んでもいいのか」と零して机をダンダンと叩き出した。その震動に机の上の書類がまた崩れていく。
 俺は再び崩れた書類を元に戻しながら、また一つ盛大な溜め息を吐いた。正直に言えば、今のヤマトは子供の癇癪より面倒くさい。
 だいたい、俺とて手伝っていないわけではない。その証拠に、俺が座っていたソファの上には、俺の処理した書類が積み重なっていた。
 そう、ヤマトの目に留めなくてもいいようなレベルの書類は俺が処理しているのだ。
 しかし、俺が処理できる量以上に、ヤマトの机の上には雪崩のおきそうな量の書類が積まれているわけなのだが。それはもう俺にはどうしようもない。

「結局あれから全然彼方に会えてないしー、もう彼方不足で死にそうー」

 ヤマトは崩れるたびに書類の山を築き直す俺に遠慮したのか、今度はトントンと書類が崩れない程度に机を指先で叩きながら愚痴りだす。
 ちなみに、あれ、というのは俺がヤマトのために『先読み(バイスタンダー)』を使って実現させた逢瀬のことだろう。
 あの時の―――1ヶ月と12日ぶりの逢瀬だと上機嫌だったヤマトを、俺は昨日のことのように思い出せた。本当に幸せそうで、俺は柄にもなく頬を緩ませたものだ。
 しかしその逢瀬は、カナちゃんの傍に張り付く駄犬―――未来という名のいけすかないガキだ―――によって潰されてしまったらしく、戻ってきたヤマトの荒れようは酷いものだった。
 出かける前のヤマトの上機嫌ぶりを見ていたせいで、余計にそう感じたのかもしれないが、それにしてもあまりの機嫌の悪さに俺もなかなか近寄れなかったほどに。
 けれども、それらは既に1月も前のこととなっている。
 本当ならばヤマトとしてもこれほどまで間を置くつもりはなかったに違いない。だいたい、その逢瀬の前までに、既に1ヶ月以上間があったのだから、件の一件があった翌日にでも再びカナちゃんと遊ぶつもりでいたのだろう。
 しかし、その時にはもう、カナちゃんの隣には駄犬よりも性質の悪い人間が存在していたのだ。

「だいたいミツハはなんだってこういつもタイミング悪く帰って来るわけ?」

 そう言って俺を睨んでくるヤマトに、俺は居た堪れなくなって「申し訳ありません」と謝罪して頭をだらりと垂れた。
 そう、性質が悪いうえにヤマトにとって犬猿ともいえる存在が、ミツハという名の『扉(ゲート)』無断侵入出常習犯なのだ。
 つまり俺―――『門番』にとっても天敵である。
 ミツハは、普段は凄腕の『使者(ヴェンダー)』―――簡単に言えば掠め取ってきた能力を切り売りする商人のことだ―――としてフラフラと他地域を巡っている。
 ちなみに、第8の『扉』だけでなく他でも頻繁に『扉』破りをしているせいで、他地域からも指名手配がなされるほどの不法入出者だったりする。こいつは『門番』としていつか殺すと心に決めているが、しかしなかなかの実力者でもあるため―――そうでなければ、『扉』破りなど狂気の沙汰だ―――適わずに今に至っていたりする。腹立たしいことこの上ない。
 そんなミツハは、寝座はこの第8と決めているらしく、どこに出かけても必ずこの第8に戻ってくる。それも、俺の―――『門番』である俺ですら気付かないうちに、だ。これほど屈辱的なことはない。
 そしてこの『ミツハの寝座は第8にある』という情報は、実を言うと他の地域には回っていない極秘のものだったりする。
 何故ならば、ヤマトがミツハの寝座をこの第8におくことを黙認しているからだ。なおかつ、それを他地域に漏らすことのないように根回しもしている。
 犬猿の仲であるのに、ヤマトとミツハの間にはなにかの取り決めがあるようだった。
 俺は、それを教えてもらったことがない。ただ、ヤマトに従って口を噤んでいるのだ。

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