Lv.0-22*
しかし、背に腹はかえられない。
だって、俺は仕事がようやく終わって疲れているし、ヤマトは大嫌いだし、なにより俺にはこの後、人と会う用事がある。
それこそ、本当ならホームに戻らずに直接その人の元へ向かおうとしていたぐらいの用事が。
それを「汚れたままの格好で行くのは恥ずかしい」という若干自覚症状のある乙女思考でホームに戻ってきてしまったのが運の尽きで、この鬼男に捕まったわけだ。
このままでは『汚れたままの格好』以上に汚れてしまう。というか、やられてしまう。
その後にあの人に、あの大好きな人に会うなんて、俺のなかのルールでは許されない。駄目だ。でも約束を破るのはもっと駄目だ。だって会うの3ヶ月ぶりなんだから!
だから、俺は殆ど口に出したことのない、言い慣れないその名前を必死で吐き出す。
「やまと…」
舌足らずな泣き掠れた声音で再度名前を呼び、「抜いて」と小さく懇願すれば、普段なら絶対にその反対で更に押し込まれるところを、ヤマトは「いいよー」と素直に応じて指の動きを止め、そのままズルリと指を引き抜く。
「ヒッ、ぐっ…!」
狭くて充血した肉の壁を異物感が逆流するその感覚に思わず声を上げれば、ヤマトは俺の背中を擦って何度もちゅっちゅと露にされた額に唇を寄せてくる。
尻穴の入り口が喪失した異物感にビクビクと痙攣するのが自分でもわかって、俺は恥ずかしさにきつく目を瞑った。
それを気付かれぬようにより一層ヤマトの腕にしがみつけば、ヤマトは「可愛い」とうっとりした声音で囁き落とす。もうこいつウザイ。
俺は今すぐにでもこの目前の鬼男を流星のように投げ飛ばしたくなったが、そこは必死に耐えてみせる。
まだ駄目だ。
だって下着のなかにヤマトの指は残ったままで、いつ俺の尻の穴に逆戻りするかわからなかったからだ。
濡れた指先が尻の肉に当たって、この指が俺の腸液で濡れながら今まで俺の穴を抉じ開けて嬲っていたんだと思うと羞恥で埋まりたくなる。
同時に、それを意識すると未だに尻の奥に残る拡張に伴う異物感が俺の中でずくんと疼いた。そのおぞましさに身体の芯が冷える。ゾワリと鳥肌が立って俺は唇を噛んだ。
ヤマトといえば、俺に名前を呼ばれて至極ご満悦の様子で、下着の中に残したままの指で俺の尻の肉を撫でたりして遊びながら、コテンと首を傾げ、「んー、で、なに?」と俺の顔を覗き込んでくる。
「どーしたの彼方? どういう風の吹き回し?」
その言葉に、俺は一瞬眼を見開き、そして次の瞬間悔しさに眼を眇め、内心ガックリと項垂れる。
つまりヤマトは、俺の意図なんてわかりきっていたっていうことなんだろう。
それでも機嫌がいいのは、どんな理由であれ名前を呼ばれたことに対してなのかもしれない。どうでもいいけどな。俺は呼び損だし。
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