Lv.0-21*
どうしよう、という既に何十回、何百回と脳内を駆け巡っている言葉がまた浮かんでは消える。本当にどうしよう。
諦めは早いほうだが出来る限りは抵抗したい。
そうすれば諦めたときの言い訳が出来るし、それで高くはないが人並みにある自尊心を保つことができるだろう。
今回は、殴られて動けないところをいいようにされているわけでもないし、人形にされているわけでもない。ただヤマトの蹂躙に腰が抜けているだけだ。
このままでは言い訳が立たない。なんとか出来る範囲で抵抗しなければ、と思う。
はぁはぁと荒い息を整えようと必死に浅い呼吸を繰り返し、ゴクリと咥内に溜まった唾液を飲み下して、俺は熱でぼうっとし始める思考を必死に留めた。
そしてそんなとき、俺の脳裏に9割9分9厘の残りの1厘の可能性、奇跡を起こせるような気がするアイディアが閃いた。
人間、窮地に追いつめられると実力以上のものが湧くとはこのことだ。
俺は機を逃すことがないようにグッと奥歯を噛み締めてから口を開いた。
「…っひゃ、っは、や、やだヤマト、やめてくれよ…!」
そして俺は恥も外聞も投げ捨ててヤマトの腕に縋った。
指を止めようと立てていた爪を、今度は目の痛いピンクのパーカーに引っ掻け、ヤマト、ヤマト、と本当は口に出したくもないやつの名前を連呼する。
「ぁっ! あっ、っは、ん…っ、ヤ、ヤマト!」
前半の言葉にならない高い音は、うっかり俺がヤマトに縋り付いたせいで、尻におさまっていた奴の指がグリッと、もうそれはグリッというかガリッというか、とにかく思いもよらぬタイミングで肉襞を擦ったせいで発せられたものだ。
それはまるで俺が自分で動いてそこに押し付けたみたいな展開になっているような気がして、俺は羞恥で頬を真っ赤に染めた。変な想像をされたら最悪だ。俺はそんなこと断じてするような人間じゃない!
とにかく噛み殺しそこなった嬌声―――認めたくないが、一般的にはそういうのかもしれない―――と『ヤマト』コールに、どんな威力があるかというと。
「なんだよ彼方ー、甘えちゃって、どーしたの?」
何時になく―――俺の尻に指を突っ込んで弄り回していたときよりも―――上機嫌な声音のヤマトがそこにいた。
縋り付いている俺の手首から指を解いて、胸元に埋まった俺の頭をよしよしと撫でてくる。
うっかりその指から逃れようと頭を浮かしかけるが、おおお我慢だ俺、我慢、と必死に浮きそうになる頭を押し付けた。
そう、演技だ。最後の手段、いや、起死回生の策は。
俺は、基本的にヤマトのことを名前で呼ぶことがない。常に『お前』だ。
その人固有の名前を呼ぶのは、言葉の力を知っているヤマトが相手だからこそ嫌だった。ヤマトにとっての特別を『許されている』ということが、俺の癇に触るのだ。俺は関わりあいたくもないんだから。
そんな俺だから、ヤマトはことあるごとに―――いや、セックスする度に、と言った方がいいような気がする自分が嫌だ―――それを強要する。まぁ、俺が応じた試しは殆どなかったけれども。
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