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Lv.0-14

「…過激だなぁ彼方はー」

 けれども、ヤマトは歯が当たったせいで切れた自身の唇をぺろりと舐め上げてにこりと笑んだ。
 やたらその仕草が卑猥に映るのは俺が免疫のない平凡人だからなのか、それとも衝突による目の後遺症か、はたまたそう思わせるのがヤマトの狙いなのか。ええい、ややこしい。むしろそんなこと考えること事態が面倒くさい。
 つまり端的にいえば、俺は混乱しているんだ。仕方ない、だって、相手はこの何を考えているのか全くわからない、むしろ知りたくもない男だ。どう頑張っても敵わない相手だしな。

「ヒリヒリするー」

 ヤマトはそう言って再度舌先で傷を舐める。流れ落ちる血液の赤さにクラリとくるが、それは俺が痛いものが苦手なせいだ、と思う。いや、だから卑猥なごにょごにょのせいではない、絶対に。
 当のヤマトといえば、切れた唇の皮膚を気にする仕草は見せるものの、しかしそれで気分を害した様子は一切ない。むしろより一層、笑みを深くして俺を見下ろしてくる。
 段々機嫌が良くなってきている気がするのは、俺の気のせいなのか。いや、気のせいじゃないような気もしてくる。まぁ、機嫌が悪いよりも良いほうが、俺に被害が少ないからいいってだけなんだけど。

「こういう過激なのが好きなんだっけ?」

 ヤマトはふとそう俺に問うてきた。しかも小首を傾げる仕草つき。いらん、そんな動き。
 俺はそんなわけあるかとブンブン首を振って俺は否定する。もう全力で否定だ。そうしないと何を勘違いされるかわからないからな。後が大変になる、後が。
 そうすればヤマトはしばし考え込んでから、「そっかーじゃあ俺は特別ってことかなー」と明るい声で言い放った。

「いや、それポジティブすぎるだろ」

 それには流石に、思わず突っ込んでしまった。
 いや、だって明らかに嫌がらせだぞ、俺としては。特別っていったって、まさに好意と敵意だったら敵意側に軍配がぶっちぎりで上がる特別だ。

「そんなことないってー」

 いやあるんだけど、と心の中で零し、この男にはなにを言っても無駄だと思い出して俺は口を噤んだ。もうやめよう。

「だからさー俺以外にしちゃ駄目だからなー?」

 わかった? と念を押してくるヤマトに、俺は小さく顎を引いた。細められた翡翠の双眸がキラリと輝き、俺を射抜く。茶らけた雰囲気に反するその眼光の鋭さに、俺は遅まきながら麻痺していた危機感を蘇らせた。動かぬ身体を奮い立たせて捉まっていたヤマトの身体から手を離そうと動かせば、再び最初のようにグイとヤマトの掌に捕まえられてしまう。ギリッと指先に力を込められて俺は小さく呻いた。

「いっ…」

 直ぐに振り払おうとした俺の腕の動きは、ヤマトの純粋な腕力で封じられてしまう。そう、能力なんて使わなくてもこの男は人並み以上に馬鹿力なんだ。ずるすぎる。

「なぁ彼方、わかった?」

 うんというまでは離さないつもりだな。
 だけれども、一度『うん』と肯定してしまえば、ヤマトはそれを『言質』にして俺の行動を縛るだろう。『絶対命令(アブソリューター)』はそういう便利な機能つきなのだ。本当にずるい能力だ。もう俺に寄越せ。


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あきゅろす。
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