[携帯モード] [URL送信]
Lv.0-13

「俺は寂しくない、むしろ清々する。だから離せ、解け! ついでに尻を撫でるのもやめろ!」

 噛み付くように一気に捲くし立て、俺はヤマトを睨みあげる。ヤマトは少し逡巡して、そして何かいいことでも思いついたようにパァッと笑みを作った。
 …うわ、なんか嫌な予感をひしひしと感じるんだけど、それ。
 俺のそんな予感を裏切ることなく、ヤマトはさらっと言い切った。

「じゃあかわりにキスしてよ」

「は…?」

 なに言っちゃってんのこのひと、と俺は素っ頓狂な声を上げた。
 けれども、言った張本人は至って真面目らしく、「だからキスして、彼方からさ」と小首を傾げてお願いのポーズだ。力を込めずに、しかし、そうしなければ力は解かないと言外に匂わせて。
 つまりは、命令するまでもなく俺はそれを飲むしかない状態なんだ。俺の意思でそうするしかないと判断させる、その腹立たしいくらい狡猾なヤマトにぐうの音も出ない。
 
「…ックソ、どうせならそう命令すればいいだろ!」

 悔しくて、でも何か言いたくてそう口早に零せば、「わかってないなー」とヤマトは言う。

「身体が動くだけじゃん、それじゃあ意味がないんだってー」

 意味も何もあってたまるか。
 俺は嫌だ、と叫びたくなる唇をグッと噛み締めて、俺は結局ヤマトの言いなりになるしかないので、ん、と唇を尖らせた。それが了承の合図だ。
 きっと第三者が見たら滑稽な場面だろう。見蕩れるような独特な美形のヤマトに、平々凡々を地でいく俺がくっついている光景なんて。俺は自分の容姿を十二分に理解しているからな、全くもって絵にならないのはわかりきっている。それはもう残念なくらいに、ヤマトに迫力負けしているだろう。どうせならそのままフェードアウトできればいいのに。
 そんな俺の不貞腐れた気持ちが伝わったのかそうでないのか、ヤマトは俺の唇を避けてもう何度目だといいたくなるそれを―――ちゅっと吸うようなキスをし、「その顔可愛い」とふざけたことを抜かしてきた。おまえ一度医者に行け、と口走る前に、俺の身体の芯に力が戻ってくる。
 腰椎からドンと重力がかかったような感じを受けて軽く足がもたつくが、腰に添えられたヤマトの腕に助けられて倒れずにすんだ。
 身体の自由を取り戻す―――ヤマトの『絶対命令(アブソリューター)』の能力が解除される―――と、俺はいつもこういう症状に陥る。それまで肉体の制御が俺以外のところにあったせいで、直ぐには上手く動かすことが出来ないのだ。悔しいことに、自分の身体なのに、自分のものではないような、そんな感覚。空恐ろしくなるそれ。
 乖離した肉体と精神の管制塔を自身に落ち着かせるため、俺は何度か深呼吸を繰り返さなければならない。その際に、不本意ながらヤマトの身体に捉まり、足に力を込めて崩れ落ちないように努めた。
 それが落ち着きを見せ始めると、ヤマトは待っていましたとばかりに俺に言った。

「ほら彼方、約束」

 約束なんてしてないけどな、と言って逃げようものなら、今度こそ容赦なく人形にされて好き勝手されるので―――つまりは既に言った経験があったりするのだ、昔の俺は恐いもの知らずだった―――俺は渋々、 本当に渋々嫌々、もう眼を背けるようにしながら、高い位置にあるヤマトの薄い唇めがけて唇をぶつけた。

「…っ!」

 ガツン、と硬い音がしてヤマトは僅かに整った眉根を寄せた。同時に、俺の顔も痛みに歪む。
 そう、その『キス』は、まさに唇同士をぶつけたものだった。軽くジャンプして―――ある意味頭突きの要領で、俺はキスとは名ばかりの嫌がらせにより近い行動を仕掛けたのだ。
 けれども、キスはキスだ。
 だって、唇をくっつければそれでキスだろう、と俺は主張します。
 そしてその『キス』の結果として、例のガツンという思い音を放って俺の唇が―――というより歯だが、ヤマトの唇にあたったのだ。
 正直に言おう、凄く痛い。歯の付け根がジンジンと痛む。
 けれども、きっと俺も痛いがヤマトも痛いと思うので、それでなんとかしてやったぜと思うことにした。


[*down][up#]

13/55ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!