Lv.0-9
変なことを考えているのはお前だろうという考えは流石に伝わらなかったらしく、ヤマトは「んー久々の彼方だぁ」と零しながら何度も飽きずに俺の唇を割ってきた。
ヤマトの人形である俺は大人しくそれに従うしかない。それが、とても悔しくて泣けてくる。
眉を顰めることもできずに、生理的なものではない涙を俺は零した。
腹の奥のほうから言葉に出来ないドロドロした感情の奔流が込み上げてくる。胸焼けを起こしそうな感覚だ。だって、意識だけある人形なんて、ただただ酷く惨めで悔しくて、狂ってしまいたくなるだろう。
拒絶の言葉も吐けず、敵わないと知っていてもその抵抗すら最初からできもしない。
人としての自己主張の尊厳を奪ったヤマトが憎くて仕方なかった。
もう、怒り心頭、今ならこの気持ちだけでヤマトを打ち殺せると思う。
涙を流し続ける俺に、ヤマトは「また泣いちゃってる」と俺の頬を撫で上げて、少し小首を傾げるように「彼方ってば怒ってるの?」と訪ねてきた。
これだけのことをしておいて、怒っていないとでも?
俺は気持ちだけで憤慨した。もう怒りも極まっていた。今の俺は脳内という妄想空間でヤマトを足蹴に出来る存在と化していた。そう、妄想だけど。
「あはー怒ってる彼方も可愛い」
けれども、ヤマトは俺の考えている以上に鬼で人でなしだ。ますます機嫌よくちゅうと涙に濡れた頬に吸い付いてくる。それはまさに、俺が怒っていることなんてなんの障害にも思っていないに違いない。
むしろ、まさに人形の如く無表情な俺のどこをとって『怒ってる俺』が可愛いというんだ。怒ってる顔なんてできもしないのに、その根拠はどこに。
「そういえば折角彼方に会ったのに、まだ全然声聞いてないなぁ」
そして唐突にヤマトはそう言った。そして俺ににっこりと微笑みかける。
「前会ったときは俺に情熱的な言葉ばっかり言ってくれて、アレはもう俺の脳天直撃だったなー」
むしろちょー下半身直撃だったね、と笑いながらヤマトは付け加え、そしてそれと同時にもともとくっついていた下半身を寄り一層密着させてきた。それにゾワリと背筋が粟立つ。
誤解を招くようなことを言うな! と俺は心の中で叫んだ。
俺が言ったのは「死んでしまえ」とか「殺してやる」とかそういう方面の言葉だったはずだ。いや、そうだった。
それをこのヤマトという男は、頭がいいはずなのに―――いや、いいからか?―――自分勝手に解釈してとる。
「ああ、勿論、可愛くないてくれる彼方の声も凄く好きー」
だから今日もたくさんないてね、とにっこり笑むヤマトの表情に、俺はゾクリとし、そして同時に足元から這い上がってくる見えぬ恐怖に身体の芯が冷える感覚に陥る。
動かない身体は震えることこそ叶わなかったが、しかし、確かに俺の精神の中の芯は無様に震えた。
ヤマトの言う『ないて』、はどういう意味か、俺にはすぐに判断できなかった。
何故かというと、前にも言ったようにヤマトは、俺という獲物を追い掛け回した挙句、引きずり倒して死なない程度に『遊ぶ』のが趣味の変態なのだ。
その、遊びの種類が、問題だ。
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