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Lv.1-42

「…っ離せよ!」

 俺は男に向って怒鳴る。近距離で見る男はやはり俺よりも背が高く、俺は上を向くようにして男を更に睨みつけた。睨めつけた視界の先には子供っぽさの残る整った顔がある。
 男は「離せ」と頻りに喚き腕を振り払おうとする俺の抵抗を見た目以上に強い力で制すると、俺の胸にかかったタグに視線を落とした。

「離せって言ってるだろ!」

 俺は不躾な男の視線に気味が悪くなって捉われていなかった片腕を我武者羅に腕を振り回した。
 しかしその腕は男の身体に命中することもなく空中に縫い留められた。
 手首がグッと、何かに抑えつけられているような感覚に俺はわけがわからなくなる。
 だって、男は俺の片腕しか掴んでいない。振り上げた腕には俺を拘束するものなんて存在していないのだ。
 しかし、事実として抵抗を繰り返していた俺の腕は空中に浮いたままピクリとも動かない。おかしい、おかしいことが起きている。
 混乱する俺を放置して、男は空いている片手で俺の首に下がっているタグを手に取った。

「…本当だ。第8地域から『扉』の通行許可が下りてるね」

 チャリっと鎖とタグの当たる金属音が響く。俺は身を捩って腕から逃れようと必死にもがいた。
 けれども男は難なく俺の抵抗を封じ込める。また全く触れてもいないのに蹴ろうとした足が動かなくなった。地面に縫いつけられた両足が酷く重く感じられて、俺はこれはやはり目前の男の能力なのだと悟る。

「そう暴れないでよ。えーっと…クジョウカナタちゃん?」
 
 男は俺のタグに書かれた名前を口に出す。俺はそれに眉を顰めた。ちゃんづけもそうだが、それ以前にこんな男に名前も呼ばれたくなかった。

「…っもういいだろ、離せよ!」

 俺はそう荒々しい口調で男に叩きつけた。
 しかし、俺の腕は離されることなく未だに男の手のなかだ。舌打ちしたい気分で俺は「聞いてんのか!」と更に声を荒げた。

「そんなに叫ぶなよ、耳が痛い」

 男は眉を顰めて手の中にあるタグを弄る。
 そして再びタグに視線を落としてから「それにしても」と続けた。

「カナタちゃんって第8ではそう高い地位にないよね。見るからに弱そうだし」

 俺は不躾な男の言葉にカァッと顔が怒りに染まる。
 確かに、俺は弱いし北地区の住人だが、それを直接的な物言いでいうものではないこと位は常識のはずだ。それを覆す男の言葉は俺に怒気を孕ませるのに十分だった。
 そんな怒りに震えて唇が音を紡げないでいると、男はさらに言葉を重ねた。

「でもこうやって通行許可証を発行されてるってことはさ、カナタちゃんって上の連中の愛人でもやってんの?」

 クク、という男の笑い声が至近距離で鼓膜を打った。
 なにを、言った? この男はなにを…。

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あきゅろす。
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