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月陰の輝き
8

翌日も山道を黙々と歩き、同じように時は過ぎていった。合間にしっかり休息は取れているので、さほど疲れは感じられない。どことなく遠巻きから感じる視線による居心地の悪さは相変わらずあったけれど。比較的話しかけやすいテオも、今日は明らかに俺から距離をとっている。
日が暮れて、隊士たちはきびきびと野営の準備を始めた。せめて自分の寝床くらいは手伝おうと、側にいた隊士に頼んでやり方を聞いてみる。親身、という感じではなかったが、教えてもらえた。

少しの達成感と共に完成したテントを眺めていると、美月から呼び出された。また王子たちと食事に付き合わされるようだ。
食事はとても美味しいのだが、やはり王子と上っ面の会話を交わし、美月の引きつる笑顔を横目に内心ため息をつく。
側に控えているセーファスも、この件に関しては下手に口をはさまない主義のようだった。しかし、たまに笑いをこらえているように見えるのは気のせいだろうか。
美月の努力も認めるが、こればっかりは相性の問題だ。美月は俺を頑固と言ったが、それは王子の方だ。その表情は美月の前では変化が見えるが、頑として俺に無表情しか向けないようにしてるとしか思えない。まぁ、美月に対する態度の方が例外的なのかもしれないけれど。

気疲れのする食事を終え、美月には悪いが一足先に戻ることにした。美月も一緒に戻ろうとしかけたが、王子が寂しそうな目をした(美月曰く)ので、もう少し王子と話してからにするそうだ。

「構ってほしそうだからさ。けっこうガキっぽい所あるんだよ、あいつ」

美月が王子に聞こえないような小声で俺に囁いた。さも困ったような物言いだが、その表情は楽しそうだ。

「お前にガキっぽいって言われるなんて、王子が聞いたらどんな顔するかな」

「きっと、“そんなことはない”って言ってふて腐れるよ。それもガキっぽいのにさ」

にやりと笑う美月に、俺もその様子は想像できて同じくにやりとした。

「おい、何をしている。お前はさっさと下がるんじゃないのか」

美月と俺が顔を合わせて笑っている様子に苛ついたようで王子が近寄ってきた。そして美月を自らの方へ引き寄せた。自分のおもちゃを取られまいとする子供のように。
なるほど。ガキっぽいと捉えれば王子のこの態度も少しは可愛く見えるのかもしれない。明らかに俺たちより年上に見えるが、弟の友達の生意気な子、と認識すれば何とかマシに思えるだろうか……。

そんなことを考えながら自分のテントへ戻る道すがら、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、気さくな笑顔を浮かべたグリッド隊長がいた。

「よう、疲れてないか?」

「おかげさまで、順調です」

あの王子の仏頂面を拝んだ後だと、隊長の朗らかで裏表のない様子は何ともありがたいものに見えた。

「何だ、変な顔して。腹でも壊したか?」

「別に壊してないです。……なんか気が抜けますよ、隊長見ると」

「うん? そりゃ褒め言葉か、イヤミか?」

「もちろん、褒め言葉ですよ」

微妙な顔をしてグリッドは首をかしげたが、気を取り直して言葉を続けた。

「そうだ、お前さん、今ヒマか?」

「はい。何かお手伝いすることでもありますか?」

「そりゃ良かった。じゃあちょっと暇つぶしに付き合ってくれよ」

「いいですよ……って、え、暇つぶし?」

「よし! じゃあ行くぞ!」

隊長は了承の返事を聞くやいなや、ニカッと笑いながら俺の腕を掴んで歩き始めた。


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あきゅろす。
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