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月陰の輝き
6

俺は王子用に用意された大きなテントの中に招待された。中にはセーファスがいて、食事の用意をしてくれていたようだ。

「お待ちしておりました、皆様」

涼やかな笑顔で迎えたセーファスに挨拶をして、それぞれ席についた。
食事は文句なく美味しく満足のいくものだったが、その場の雰囲気は俺にとっては不可思議なものだった。例えば、美月が変に王子に気を遣っているのか、やたら王子に話しかけてはそのまま俺にも同意を求めてくる。俺が何か言えば、黙る王子にすかさず美月がフォローを入れる、というような。
和やかとはとても言えなかったが、少なくとも厳しい物言いや喧嘩腰にはならなかったので、今までよりはましなものだとは思う。ちなみに、セーファスはどこ吹く風とばかりに控えに徹していた。

食事を終えた後、待っていたようにグリッド隊長が入ってきた。王子と話があるようで、セーファスに促されて俺達は王子のテントを後にした。

「あー、疲れた! なんでランドルフと兄貴って普通に会話できないの?」

美月があからさまにため息をついた。

「いや、今までで一番会話らしい会話だったじゃないか。俺は普通に接してるつもりだけど、向こうの気持ちが問題じゃないか?」

俺の声に棘が含まれてしまったのに美月は気づいたようだ。

「兄貴もそんなに頑なにならないでよ。ランドルフにも良い所あるんだよ」

「……美月、何考えてるか知らないけど、さっきみたいに無理に取り持つようなことしなくていいから」

「えー、だって仲良くして欲しいんだよ」

美月の真意はそうじゃないかと思っていたが、それは俺にとっては無理な相談というものだ。たぶんあの王子もそう思ってるんじゃないだろうか。

「でもそうだよね、まだまだこれからだよな」

俺の表情をどう読み取ったのか、美月は気合を入れ直したようだった。まぁ美月がやることに王子は怒らないだろうから良いけど、無駄に疲れることが予想された。

美月はもちろん専用のテントが用意されているが、なんとその近くに俺にも個人用に寝床が用意されているようだ。

「別に兄弟なんだから一緒のテントでもいいじゃん、って言ったんだけど却下されちゃってさー」

「兄弟といっても神子様には分別も弁えて頂かなければなりません。ただでさえ、美月様は気さくでいらっしゃるから」

セーファスが美月に釘を刺すように言った。

「さっきも小言は散々聞いたよ。分かってるから!」

そんな調子で美月は専用のテントへ入っていった。それを見送り、セーファスは今度は俺をテントへ案内した。

「ではまた明日」

明日の予定を告げ、帰ろうとしたセーファスを呼び止めた。

「ちょっと時間大丈夫か? 少し聞きたいことがあって」

「何でしょう?」

「立ち話も何だし、中に入るか」

「いえ、それには及びません。あなたの華々しい噂にまた新しい尾ひれが付いてしまう」

「は?」

何を言っているか分からなくてきょとんとしていると、セーファスに悪戯っぽい笑顔が浮かんだ。

「気軽に寝所に人を呼ぶものではありませんよ」

「……そういうことか。今度はセーファスも俺の餌食になるって?」

この世界の常識ってことか。確かに俺の世界でも夜分に異性を招くのは憚られた。それがこの世界では同姓でも適用されるってことなんだ。

「どちらかと言えば逆でしょう。まぁ、理解して頂ければそれでいいのですが。それで、話とは内密なものですか?」

「いや、そんなんじゃない。ちょっと相談というか……」

俺は聞こえる範囲に人がいないのを確認して話した。美月の従者兼護衛になれないか、どうすればなれるか、ということを。

「なるほど。話は分かりました」

「あぁ、どうかな?」

「率直に申し上げれば、無理でしょう」

いつも通りの落ち着いた様子で、あっさりとセーファスは言い放った。


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あきゅろす。
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