月陰の輝き
17
「ほら、ダチなら隣歩けよ。連行してんじゃねぇんだから」
アルベルトは機嫌が良さそうに言い、隣へ来るよう顔で促した。
「早速で悪いが、お前は美月がこれからどうなるか分かるか?」
「確か王宮に神子様専用の宮があったはずだ。そこに住まわれるんだろう」
「へぇ、王宮か。すごいな」
しかし、やはり王宮に連れていかれてしまうのか。神子という身分の美月は雲の上の存在になるようだ。
「……お前、自分の心配はしないんだな」
アルベルトは意外そうにしている。
「あぁ、異世界にいるっていう現実感がまだ湧かないだけなのかな。とにかく俺はできることからやるしかない」
というより、まだ異世界だという事実を信じきれていない。これからどうなるのか、帰ることができるのか。それを考えると、不安で頭がパンクしそうだ。
でも美月がいる。そう思うことで、今はその思いがいくらか軽減されるのだ。俺がしっかりしていなければ。美月の方がよほど戸惑う立場にいるのだ。
「……のーてんきな奴」
アルベルトはため息をついた。そして続けた。
「そんな調子じゃ、これから大変だろうよ」
「……分かってるさ」
これから起こるであろうこと。美月の優しさ。神子の立場。周囲の反応。この世界での俺の立場。
どうなるか分からないが、嫌な憶測ばかり浮かんでくる。それでも俺は美月の側にいなければ。兄なのだから。
「へぇ……」
声のした方を向いた。
気づけばアルベルトが覗き込むように俺の顔を見ていた。その口元が微かに笑っている気がする。
「な、何だよ」
「別に。ほら、もうすぐ着くぞ」
何だか楽しそうな口ぶりだ。ちょっと不気味だと思ったのは言わないでおこう。
アルベルトが言った通りに、森が終わり視界が開け、家々や人々が行き交う町並みが見えてきた。
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