月陰の輝き
12
「おい、どうした?顔色悪いぞ? そういえばお前さん、結構アルのやつにやられてたな。癒者に診てもらうか?」
「あ、いえ……大丈夫です」
とりあえず今は美月と合流する。それからのことは……それからだ。
「本当か? アルの奴の最後の蹴りは思いっきり入ったように見えたが?」
隊長はそう言って、俺のTシャツをぺらりとめくった。そして俺の腹に手を置き、軽く押した。痛くはない。しかしあの場面で一番悔やむべきだったのは……
「ふむ。……やっぱりお前さんはいい格闘センスの持ち主だな。とっさにあの崩れた態勢から、アルの蹴りを軽減するために自ら体を引いたな? だが惜しむらくは周りの状況に対する注意力か」
その通りだ。とっさに引いたはいいが、近くに木があったことに気づかなかった。それで木にぶつかり、更に窮地に立たされたわけだ。我ながら情けない。
「それと、実践不足だな。アルは石頭だからなぁ。痛かっただろ?」
グリッドは愉快そうに笑いながら言った。
確かに、俺のやっていた武道では頭部への攻撃はタブーだったので、まさか頭突きされるとは考えていなかった。頭突かれた箇所はまだジンジンと痛む。
俺はアルベルトの方をちらりと見る。彼は怪訝そうにこちらを見返した。
「お前、頭痛まないのか?」
「全然。お前が脆いんだろ」
にやりとしながら言われ、俺はむっとした。通常、頭突きは双方が同様のリスクを伴うはずなんだよ。石頭というのは本当らしい。
豪快に笑いながら、諌めるようにグリッドが割って入った。
「しかし、最初のアルを投げ飛ばしたのは凄かったな。アルも隙を突かれたとはいえまだまだだな。俺も驚いたよ、なぁ?」
……あれ?
アルベルトも同様の疑問を持ったようだ。
「隊長……、いつから居たんですか?」
その場が静まりかえった。
たしか、俺がアルベルトを背負い投げしたのは戦いの一番最初だよな。ってことは……。
その沈黙を破ったのはやはりグリッドだった。
「あ、あー…アレだ!そう!アルがこの場で騎士としてどう対応するか見極めてたんだ。断じて面白そうだったからというわけじゃないぞ!」
この反応は誰から見ても明らかだ。俺が必死に戦ってた中、この男は高見の見物をしていたわけか!
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