月陰の輝き
9
「おい! ここはどこなんだ!?」
まさかとは思いつつも動揺を隠せない。声は切羽詰まるように響いた。
「はぁ? だから聖域……」
「違う! 国名だ! ここは日本じゃないのか!?」
「ニホン? この国はエクシフォード王国だろうが」
赤茶の髪の男は怪訝な顔をしながらも律儀に答えてくれた。
「エクシフォード……?」
聞いたことがない、が、世界は広い。俺の聞いたこともない国もあるだろう。藁にもすがる気持ちでさらに問う。
「ヨーロッパかユーラシアか、もしくは他の大陸の中のどこかか……?」
一瞬の沈黙。
しかしすぐにそれは男によって盛大に破られた。
「いい加減にしろ!お前、さっきから馬鹿にしてんのか? わけわからねぇ質問ばっかしやがって……!」
やばい。とうとう怒らせたようだ。
男は今にも剣を動かしてそれを俺に振り下ろさんばかりだ。
「いいか!最後に一つ答えてやる!お前がこれからどうなるのかをな!」
もうどうしようもないか。ここはどこなのかということも含め、色々な問題は後で考えることにする。今は、自分の身が第一だ。
俺は覚悟を決めて、男の剣の切っ先を見つめる。
男は怒鳴り続けている。
「神子様に汚らわしい手を出した罪で、お前の両手を切り捨てる!加えて無知なお前に言っておくが、それは神からも見放された罪人の証だ。今後普通に町で暮らせると思うな!」
俺は剣の切っ先から目をそらさない。そして心の中で唱え続けた。
これは模造刀、これは模造刀……と。
男は大人しくなった俺を見て、観念したと感じたらしい。落ち着いた声で言った。
「ようやく大人しくなったな。抵抗しなけりゃすぐ終わらせてやる。覚悟しろ」
剣が振り下ろされようとしている。
これは模造刀。だから大丈夫だ。
恐れは……ない!
ヒュン、と俺が直前までいた位置に風を切るように剣が振り下ろされた。俺は素早く体をひねらせて地面へ転がり、体勢を整える。
男はまさか俺が避けるとは思っていなかったらしく、目を見開いている。俺はその一瞬の隙に男の手首を蹴りあげた。
ガシャン、と剣は男の手から離れ地面に転がる。俺はさらにそれを、男の手の届かない場所へ蹴り飛ばした。
「てめぇ……!」
男は我に返り、俺を睨みつけた。そしてすぐに殴りかかってきた。
「言っておくけど、これは正当防衛だからな」
武道有段者を甘くみるなよ。
俺はその拳を避け、相手の懐に潜りこみ勢いを利用してきれいに背負い投げを決めた。
「一本!……なんてな」
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