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未来

ひととおりゲームを終えた頃
「あーもーいややあああ」
「驚きの弱さじゃな……」
「謙也おるとビリにならんからええやろ」
「そうだね。とても気分がいいよ」
「お前ら二人わざと攻撃してくるからもおおいやや」

四天宝寺の二人と、みんなはうちとけていました。


「ふぅ」
笑い疲れて、私はベランダにそっと出た。
生ぬるい風が肌にまとわりついてきたけど、外の空気は少し気持ちがいい。

そんなことをおもっていると、すぐ後ろから声をかけられた。
「眠い?ごめんな。おしかけて」
振り返らなくても、さすがに覚えた。
忍足謙也は私の隣に並んで、申し訳なさそうな表情を私に向けた。

「ううん。笑いすぎて表情筋が痛くなったから一休み」
笑顔を向けると、彼も同じように笑顔に変わる。
彼の笑顔は、なぜかとても暖かな気持ちになる。

「あのーさ」
「うん?」
言葉の無くなった二人の空気に、忍足謙也は私を伺いながらとても緊張した声を響かせた。
それに疑問を抱きつつも、安心するように優しく返答する。

「お、お願いがあるんやけど!その……侑士に写メ送ってええ?」

目をギュッとつぶり、私に向き直る忍足謙也に、間をおいてからつい噴き出した。
「ふふ、いいよ。だけど、景吾の車やジェットでここまでこられると嫌だから、私が帰ってからにしてね」
「……せや、な」
嬉しそうな表情から、複雑そうに呟いた忍足謙也にまた笑いがこぼれる。

「じゃ、じゃあ撮るで」
「うん」
忍足謙也が携帯で器用に私と自分を撮る。
そういえば自撮り機能なんて使ったことないな……とその光景を珍しそうに見つめた。

「こんなんやけどええ?」
「うん」
「へへっおおきに」
嬉しそうにその画像の保存ボタンを押す忍足謙也。
そんな表情を見ていると、ふとある事に気が付いた。

(あれ、そういえば私、お兄ちゃんと優斗以外でツーショット撮るの初めてかな。)

「ふふ」
私にとって記念すべきそれは、彼の表情を見ていると、私もうれしくなるもので、またつい笑いがこぼれた。

「どないしたん?」
「あのね、忍足謙也に初めて奪われちゃったなーって」

笑顔のまま答えると、みるみるうちに忍足謙也があわてはじめる。
「は!?なになななにがやねん!?」
そのあわて様に、自分の発した言葉を思い出し、彼がなぜあわてているのかに気づくと、私もあわてずにはいられなかった。
「えっ!あ!ちがう!!ツーショットをね、家族以外ととったの初めてで!!」
そう必死に説明すると、一気に忍足謙也は落ち着き、今度は恥ずかしそうに頬を染める。
「あっそうゆう…やっその…す、すまん…」
「い、いえ…私こそ…」
外の生ぬるい風のせいだけではない暑さに、私たちはお互い反対方向に向きながらパタパタと手で自分を仰いだ。


「あ、そうだ…ごめん」
二人の写真は侑士に送ったら削除を…
思いかけて、固まった。
これだけ楽しく話していたのに、私は、彼を信用していないのかと。
だけ、ど…ちがう。そうじゃ、ない。彼自身を守るためでも、あるんだ。

脳裏には幼いころの慈郎ちゃんの姿が回想された。
もうあんな思いは、させたく、ない。

「どないした?」
心配そうにこちらを見つめる忍足謙也に、胸がちくりと痛んだ。

「もしものために、侑士に送ったら、写真、削除してくれる?」
私の言葉に、謙也は表情を固める。しかしすぐに、事情を知っている忍足謙也は、察してくれて、笑顔を作ってくれる。

「りょーかい。その分めっちゃ侑士に自慢するで」
「うん。ありがとう。」
彼の返答に、ホッと胸をなでおろした。

しかし、彼が真剣な顔で、私ではなく外を見つめながらこぼした言葉に、すぐに表情が硬くなるのを感じた。

「なぁ、いつか、写真印刷して、部屋に飾れる日、来ると思うか」

『うん』そう、頷いてしまいたかった。
だけど、すぐにあいつの姿が頭に浮かんだ。

「俺がお前を自由にするから。それまで、まってて」

「きたらいいな」そんな願望すら、私には口にする権利が、ない。


私は、できる限りの笑顔を向けて、彼をベランダへ残したまま室内へ戻った。



私がもし、みんなのような家に生まれていたら
そう考えることが今までなかったわけじゃない。
だけど、そうしたら確実にあいつには出逢えていないから
その妄想は、いつもその先へ進まないTLDR



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