ポジションsid幸村
あぁ……腹が立つ。
多分、いや、絶対わざとだ。
「だからさ、何も考えないで。」
「精市?」
「前に進むときは何も考えないで良いんだよ」
何をするにも、海里が前に進むためには優斗さんを思い出すように、わざと振る舞っていたんだ。他の誰と一緒にいようと、自分を忘れさせないように。自分以上はいないと思わせるように。
以前の旅行といい、薬の件といい、優斗さんは、性格が悪いと思う。
海里にとってどれだけ大きな存在かを知るたびに、俺は優斗さんを嫌悪せずにはいられない。
わざと自分の存在を海里からちらつかせるとか、自分が離れようと誰にも譲る気がないのが明らかすぎる。
「俺だって、譲らないけど」
そっちがその気なら、あなたの知らない今、俺はあなたと同じことをするよ。
「精市?」
「ねぇ、海里、俺なしではいられないくらいこの中学生活楽しい日々を送らせるから。」
「え、え?」
「将来、子どもの頃を思い出した時、『あぁ中学時代が一番楽しかった』って、思わせるくらい」
「あの」
「だからさ、もっと預けて。何も考えないで、全部。」
いつの間にか、俺はひざを折っていて。海里を背後から軽く抱きしめていた。
「考えるとしたら、俺だけにしてね。」
「さっきからどうしたの、精市」
「……なんでもないよ。ただ、俺のことを考えてほしいだけ。
それじゃ、次試合あるから行くね。本当に辛かったら、だ……俺に、言ってね」
それじゃあ、そういって、俺はコートへ向かった。
海里の身体を考えれば無理に安静にさせた方がいい。今までも、そう思ってはいる。しかし、それを邪魔したのは遠慮で。今は違う。海里は口にしなくとも、自分がやるということを止められることを嫌いだ。だから、止めない。彼女が助けを求めるまで。そして、彼女がやりたいことをやれるように、こっそりとサポートする。
優斗さん、あなたがいない間に、俺はあなたのポジションを奪う。
TLDR
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