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なりかわり

「ストーップ!ハイタッチは絶対ー!」
「お、おう」
「今のなにあれ!!すごい!さっきネットしたばっかのショートクロス狙うとか完全に裏かいてたよね!今の綺麗すぎて私が向こうの後衛でも無理だった!」

ダブルスは相方と声を掛け合いながら楽しまなきゃだめ。

一匹狼決め込んでいたどの口が言うか!なんておもいながらも、そう言って、いつも引っ張ってくれていたあいつが、チラチラと頭に浮かんでくる。

「スイッチ!」

あぁ、そういえば、私こうやってダブルスの相方をちゃんと引っ張ったことってあったっけ…?

「今、ドロップにするか悩んだでしょ。せっかくなんだから試したいこと全部やろ」
「でもあそこで取られたら…」
「私のこと、信じてよ。それに、練習の時通りの忍足謙也のドロップをあそこに落としていたら絶対先輩たちは取れなかったよ。私も自分も信用して。次そんなこと言ったら拗ねちゃうからね。」

なかった、や。

「お願い!」

いつも、あいつやお兄ちゃんや、景吾たちが楽しくダブルスができるように引っ張ってくれた。
テニスになると私が無表情になるの、いつも注意されてた。

「決める!」

あいつやみんながいないと、楽しめないのかなって、ずっと思っていたけど…
私も、でき、てるかな。
忍足謙也は、私があいつやみんなのおかげで思えたように、ダブルスは楽しいって、思って、くれるかな…?


そう確かに願うのに
心のどこかで、いつも甘えていた『大好きなダブルス』と違うことに、なぜか、痛みを感じた。

この切なさを、私ははじめて知った
***

「ありがとうございました!」

最後の挨拶として、握手をするとき、先輩たちはがっかりと肩を落としていた。

「マネちゃんが行動範囲広がってビビってたら、急に謙也も動き良うなるし…いい気になってた自分らが恥ずかしいわー」
「油断は禁物ですよ。能力があって伸びしろがある相手じゃないと私が組むわけないじゃないですか」
にっこりといってから、最後に忍足謙也と声を合わせて「一発芸楽しみにしてます」と言い残して私たちはコートを後にした。


「自分」
「え?」
次のコートはどちらだったか、と少し辺りを見渡して足を踏み出すと、忍足謙也の小さなつぶやきが耳に入った。

「なんなん。かっこええ!」
忍足謙也は『あーもー』なんて言いながら両手で頭をかきむしった。
突然のことに私は驚いて足を止める。

「同点に追いつくときのあれなんなん!『とる』とかやなくて『きめる!』て!!男前すぎやろ!!」
溜まっていたものを発散するように大きめの声で忍足謙也は言い放つ。

「自分の声とボールの音だけ聞いておけとか、信用しろだとか!ほんまなんなん…」
頭を掻きながら、昼休みの時のようにへろへろとしゃがみこむ忍足謙也。
それに、私も昼休みと同じようにしゃがみ、なんとなく汗で少し湿った、かきむしられていた頭をそっとなでた。

「試合、どう、だった…?」
少し、弱った声が出た。
それに忍足謙也は弾けたように顔を上げる。表情は驚いていた。

「どう、て?」
「楽しかった……?」
自らの顔が困っていくのがわかる。
なでていた手も、そっと引っ込めた。

しかし、勇気を振り絞って、落とした視線を、おそるおそる忍足謙也にむける
と…

「めっちゃたのしかった」

あの、太陽みたいな笑顔を、向けてくれていた。
不安もあったから、その答えに驚き、そして、忍足謙也の笑顔に驚く程安心した。

「そっ、か…ふふ、そっか!」
忍足謙也の顔を見ていたら、安心からの喜びもあり、自然と笑顔になっていく。
そんな私を不思議そうに見つつも忍足謙也も一緒に笑ってくれた。




泣くな。泣くな!
自分に言い聞かせる声は、震えていた。TLDR


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あきゅろす。
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