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反撃開始

「…っはぁ…はぁ…」
忍足謙也の荒い息が耳につく。

出来るだけ手を出さないで、忍足謙也のスピードに磨きをかけ、体力アップを図るための組み合わせとして私が選ばれた。
そして、忍足謙也はよくやっている。相手がこうして疲れている者を狙うのはおかしいことではない。おかしいことではないのだ。

だけど

(大人気ないですよ先輩方あああああああ)

本来なら真っ向から勝負してきそうな相手だからこそ、私はわかっていた。
この人たちがなんでこんな手を使うかなんて。

(罰ゲーム私だってやりたく!な!い!)

相手が、忍足謙也の先輩として悪いと思いながらもこの手を使ってくるのは確実に罰ゲームを避けるためであるのは気づいていて。
このままではだめだと、海里は考える。

(しかたない…。部長たち、忍足謙也、ごめんなさい。)
忍足謙也の成長のため、手を出すべきではないことはちゃんと理解はしていたが、これでは一方的であるのと罰ゲームのこともあり、いてもたってもいられなかった。

見上げると、タイミングのいいことに、自分の真上を通るサービスラインよりのデットゾーンではねそうなロブだ。
さっきまでは忍足謙也なら間に合うこともあり、手を出さずにチェンジをしていた。
だが
「忍足謙也そのまま!」
そう大きめの声をだし…

パアァアン

「そこでスマッシュ打つんかい…」

ミスの危険性が高いため、おすすめはしないような場所で私はスマッシュを打った。
あたりが静まり返る中で嫌そうに相手の先輩が呟いた声が聞こえたが、聞こえないふりをする。
本来なら生意気にも舌を出したいくらいだが、これはダブルスだからやめておいた。

「ちょっ海里足…」
「片足で着地してるから平気。サーブは打ってるんだしさ」
心配そうな忍足謙也にニッと笑ってみせる。

「部長たちの指示ではあんまり手を出すべきではなかったんだけど、もうちょい行動範囲を広げる。忍足謙也のおかげで体力回復できたし」
言うと、忍足謙也が少し申し訳なさそうな顔をする。
その顔に、心が痛む。幼い頃の自分が、重なった。

いつまでたっても上達しないで、優斗やお兄ちゃんにどんどんレベルを離されていった自分に。

忍足謙也は、悪くないのに。
私なんかより甘えず努力しているのに。

「言っておくけど、負けそうだとかそういう理由じゃないよ。忍足謙也は前衛後衛の役割をきちんとわかっているから、ほかのフォーメーションも覚えて欲しいの。だから、私の声とボールの音だけを聞いて?」
ギャラリーから漏れるため息やつぶやきはただただやる気を削ぐ。それらにこの試合中何度も睨みを向けたが、人の入れ替わりがあると完全にはなくならなかった。
それにイラつきを覚えていた自らの感情をなんとか沈める。だけど言葉の意図に気づいてもらえるように、表情は変えずに告げた。

それに気づいてくれたのか忍足謙也はゆっくりと首を縦に振った。
今まで耳についた声やため息を頭から削除するように。

それに安堵して、表情を崩した。

「よし、忍足謙也!反撃開始だよ!絶対先輩たちに一発芸やらせるわよ!」
「おう!!」


TLDR


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