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組分け
「お騒がせ……しま、した……」
休憩に入り、給水する両校部長に頭を下げる。
足はなんとか白石くんに許可をもらえるくらいには処置をしてもらった。

「いや。足悪いん?」

「……怪我を、一度しまして。」
苦く笑いながら四天宝寺の部長に告げると、すべてを察したような表情になる。
彼の後ろでは、昨日戦った四天宝寺の1の人が眉を寄せていた。

聞かれて、軽く流すことはできただろうに、素直に口にできた自分に少しだけ驚いた。
今までなら、気を許した相手ならまだしも、出会って数日とたっていない相手に弱みを見せることなんてなかったから。精市から始まり、忍足謙也といい、白石君といい、生きる世界が変わってからというもの私は、どこかおかしい……。

「そう、か。ならメニューを……」
『見直したほうが』そう続くだろう言葉を、私は遮るように口を開く。
「このままで大丈夫です!」
しかし、自分の背後から事情を知っているメンバーの……特に白石くんの視線が非常に痛かった。

「先ほどは、私のせいで白石くんにあのような発言をさせてしまって本当にすみませんでした。でも、わ、私が今日やるのは球出しと最後のダブルス練だけですし、そう動かないですし……このまま、いかせてください。」
頭を下げると、部長二人は困ったようにため息をついた。

さっきの白石くんの行動は、団体行動としてやってはいけないものだ。そして、それは私がいなければ起こらなかった。私の責任だ。

「やはりお前は……」
休んでいるべきだ、と続くだろううちの部長の言葉は尻すぼみに消える。

それもそうだろう。人数は私を含めて組んであって、今から抜けさせるとすればこの暑さの中で頭を使って組み直さなくちゃいけない。正直なところこうなった時のために人数を変えることができないメニューを組み込んだ。

「無理は、せんといてな?」
「はい!お気遣いありがとうございます!」
満面の笑みを見せると二人は複雑そうに笑った。

「怪我って」
部長との会話が終るのを待っていたのか、四天宝寺の1さんが声をかけてきた。
それに、私は眉を寄せて笑う。

「靭帯を少し。私みたいな人を出さないように全力でサポートしますので、先輩も怪我を甘くみないでくださいね!」
どの口が言うか!と内心自分を責めつつできる限り明るく答えた。それに先輩は真剣な顔のまま私を見ていた。

テニスを好み、実力をつけるためにひたすら練習をして、ここまで来た者同士だ。お互いの今の気持ちが痛いほどにわかった。
だからこそ、この空気が、嫌だった。

「昨日は薬を飲んでやっていたので、わりと本気ですよ」
空気を壊すために、にやっと笑って生意気を言ってみた……ら
「いひゃい!」
両頬をつねられました。

「いつか、本気の本気を出させる」
ジト目でそう告げてから、先輩は私の背後に目を向けて焦りながらこの場を去った。

この部活に入ってから、初めての体験ばかりだ。でも、今までみたいな私が括った境界線の外側の人とも、こうやって頬を引っ張られたり、まっすぐな言葉をもらったりできることを、幸せだと、嬉しいと、感じる。

「海里ちゃん……俺の言葉理解できひんかった……?」
「!」
突然背後から低い声が聞こえて背筋がピンっとのびた。
ひいいと焦りながら振り向くと、その人との間にさっとふたりの影が入ってきた。
「白石くん、近いよ」
「うちの子に必要以上に近づかないでくれないか」
ふたりの影は精市と柳くんで、二人は私を隠すように白石くんの前に立ちふさがった。

「うちの子って」
柳くんの言葉に小さく笑うと、二人からも厳しい視線がこちらに向けられた。

「笑っている場合じゃないよ?なんで海里も練習の参加を断らなかったのかな?」
向けられた言葉に、周りを見渡せば、いつものメンバーにプラスして白石くんと忍足謙也に私は厳しい視線をむけられていた。それに内心悲鳴を上げながらも少しだけ後ずさりつつ口を開いた。

「ごっごめんなさい!で、でもね、人数的な問題もあってね……」
「球出しならまだしもダブルスとか言ってなかったか」
「あー……」
視線をそっぽに向ける。どうしよう。ここでの回避術を私は知らない。
無情にも休憩をはかるストップウォッチもまだ時間があることを告げている。

そんなとき
「まぁ、ダブルスならもうひとりが働けば良いんだろ」
ジャッカルくんが助け舟をだしてくれた。

「ジャッカルくん……!」
感動してジャッカルくんにキラキラとした視線を向ける。
周りのみんなはぴたりと動きを止めた。
少し間を空けて、ブン太が私のそばに駆け寄る。

「ダブルスの組み合わせ基準は!?」
「えっえっと、今日のダブルスはあくまでフォーメーションや動きの練習だから、試合でダブルスのペアが決まっていない人は前衛後衛の向き不向きを見つつレベルが均等になるように組むつもりだよ」
「均等っつっても、海里はあんまり戦力としてほとんど入れないで、だよな?」
「あまり動くわけにもいかないし、そう、ね……。でも、前衛としては働けると思うから、スイッチするとして、後衛向きで体力がある人かな」

(((((体力…!)))))

「み、みんな…?」


その後の練習では、太陽が傾いても今日の異常な暑さは変わりないというのに、みんなの動きは激しさを増したのだった。TLDR



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あきゅろす。
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