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慈郎編11

僕は、あの少年に言われたように、いつもみたいに寝過ごしたふりをしてみんなの前に姿を出すとみんなは安堵の息をついた。
学校内では、『princessの誘拐事件』として大事になっていて、校内に僕の姿がみつからないことで、僕は犯人の疑いをかけられていたらしい。
それに、僕はあの少年に助けられたのだと、今更ながらに理解した…


しばらくして、海里ちゃんの家からの電話、そして僕が出てきた事で落ち着きを取り戻してきた教室は、おとなしく授業を始める。
あたりは授業に集中するなか、僕はこぶしを握って頭を伏せた。

全て全て、僕のせいなのに
僕が…っ
なのに、なんで僕はこんなところに…っ

のこのこといわれたとおりに彼女から離れた自分が嫌で、むかついて、悔しくて、仕方がなくて。
僕は、ぐっと唇を噛み締めて涙をこらえた。

あの子は大丈夫なのかな、
のうしんとう、って言ってた。それってどうゆうことなの?
そんなの、わからなくて。でも、ぐったりとした彼女が何度も何度も僕の目の前に現れて、不安で仕方がなかった。

でも、僕らは『お昼休み』だけの仲で、僕は彼女に会う手段を何一つ持っていない。
どうしたら、僕は彼女の…っ

そこまで思いを巡らせたとき、脳裏にクッキーを彼女に届けに行った日のことが浮かんだ。


っそうだ




授業終了の合図と同時に駆ける足。


自分でも驚くほどの勢いとスピードがでて、自分が呼吸をしているのかすらよく分からなくて。
でも、彼女のあの姿を思い起こしたらこんなのは微塵も辛くなかった。


この学校で一番featherに近い人間
唯一、手を必死に伸ばせば、かすることが出来るかもしれない、家柄

そんなの、僕ですら知ってる。


僕は隣の組がいるはずの移動教室、科学室へそのままの足で駆け込む。
すると、少し遅れて授業が終わった瞬間だったのか一斉に僕のほうへ視線が集まった。

そんなの、どうだっていい
「アトベ!」
僕は周りを気に留めず、そいつに向かっていく

そして、その場で話そうとして、一度口を閉ざした。

『絶対にこの事は他言するな』

その言葉が脳内で何回も繰り返されて、僕は口を閉ざしたままアトベの手を引いて、また駆けた。
目的地はあの空き教室。




「お前にしては正しい判断だな」
部屋に入った瞬間、そう少し切れた息でアトベが言った。
それに何も言わず、アトベに振り返る。

その瞬間、
僕の頬をこぶしが掠めた。

だんっ

と大きく音を鳴らせる僕の背後の壁。
それが妙に耳に響く。
それと同時に、彼がこの間言っていた『覚悟』の意味をやっと、ちゃんと理解する事が出来た。


この人は、
僕なんかよりもずっと、ずっと近いところに、いたんだ。


「てめぇ、princessにもしものことがあったらぜってぇ許さねぇからな…っ」

その言葉に、僕は学校に帰ってきてからずっと我慢していた涙を遂にこぼしてしまった。

「ごめ、っさっ
どうしよう、僕、僕のせいでっひっ」
どんどん表情を崩す僕に、そいつは表情を変えずに腕だけを元に戻した。

「優斗は、なんて言ってた?」
真剣な低い声でアトベが僕に問う。
でも、僕には『優斗』が誰なのかわからなくて、彼の瞳を疑問が映る目で見上げた。

「深緑色の髪をした奴。
どうせ、あいつが一番に駆けつけたんだろ」
『あいつ保護した事だけ言ったら電話きりやがった』と少し呆れたように言うそいつ。
すごく、イライラしてるのに、そんな言い方をしてくれるのは…僕の、ため…?

その言葉に、僕は首を縦に振ってから口を開いた。
「中度ほどののうしんとう、と、肩の打撲、と頬の腫れ、って」
少し曖昧になりながらもそう告げると、勢い良くアトベに両肩をつかまれる。
「ってことは、殴られたのか?!」
驚きながらもそいつと目を合わせると、そいつの目は先ほどまでの怒りなんて欠片もなく、ただただ心配だけが映し出されていた。
それに、僕の脳裏には、つい先ほどの彼女が殴られる場面が浮かぶ。

…僕の、せい、で

首を、たてに、振る。
そんな僕を見て、アトベは我に返って怒気を瞳に戻すと、僕にも聞こえるほどに歯をギリ、と噛みしめた。
でも、それについて普段なら浮かぶ、むかむかとした気持ちとかは浮かんでこない。
だって、僕はそれほどの憎しみを向けられるだけのことをした。

それに、

「(こいつ、本当に彼女の事が…)」

その憎しみの裏にある、感情が、分かってしまった、から…。

少し、間を置いてアトベが小さく呟く。
「でも…さすが、princessって、とこか」
その言葉には少しの安堵が伺えた。
少しだけ、自分の感情がそれにほぐされて。僕もアトベと同じように小さく「え…?」と疑問の声を漏らす。

「大人の男に殴られてそれくらい…てことは、急所は避けたってことだろ」
嫌そうにだけど、僕のそんな言葉に答えてくれたアトベ。
言っていることは、喜ぶべき所だけど、アトベはやっぱり不安を消さない。
そんな姿を見ると、彼女が僕だけのものじゃなかったことが改めて思い知らされて、こんなときなのに、悲しくなった。

「骨には異常、ないんだよな?」

「あの人は、そう言ってた」
コクン、と首をまた振りながら答えると、表情は変わらないものの、少しは落ち着いたみたいだ。
すると、そんな僕たちの間に、次の授業を知らせる鐘が鳴り響く。
でも、僕らはそんなのも気にせずただ1人のことだけを考えた。

「で、お前は」
ずっと、泣いた僕を、どこか気遣って怒りを出来る限り隠していたようだったアトベは、言葉を発すると同時にそれを露にする。
それは今まで向けられていたものとは比べ物にはならなくて。
それだけのことをしたと理解しているのに、そんな彼に思わず僕の背筋は冷えた。

その時
アトベの声だけが響いていたこの空き教室に機械音が鳴り響いた。

それに舌打ちすると、アトベは僕に背を向けて胸ポケットに入っていた携帯を開くと耳に当てる。

「テメェ、さっきはよくもきりやがったな」

『…。
病院での検査が終わった。これから数日は安全を考慮して絶対安静。』

「無視か。つうか現状は…」

『海里に伝えろといわれたから電話しただけ。
お前の質問に答える必要性がない。』

ブツ

携帯を見つめ、口角を引きつかせると、アトベは強すぎるほどの力で携帯を握り締めてからまたそれを胸ポケットにしまいこんだ。

「相変わらず気にいらねぇ奴」
ポツリと吐き捨てたそれに、なんとなく先ほどの男の子が浮かんだ。
多分だけど、きっと今の電話は彼からな気がしたから。

その光景を見ていた僕に一度視線を向けると、アトベはドアへ向かう。
それに慌てて僕は足を踏み出して声を発した。

「どこ、行くの?」

僕の声に、一度ピタリとアトベは足を止める。
そして少しだけ振り返って、口を開いた。

「お前には関係ない」

それだけ言うとまたドアへ向かってしまう。
僕は少し駆けだして、そんな彼の腕を掴んだ。

「彼女の所に行くの?会えるの!?」

必死にそうぶつければ、アトベは僕の方をうざったそうに見て。
手を大げさに振りほどいた。

それでも、ジッとそいつを見れば、その瞳は、あんな目にあわせた僕が何を言っているんだ、と言っているようだった。

思う気持ちも分かる。分かる…けど。
だけど…だけど!

どうしても、彼女に会いたかった。
なぜかは分からないけど、このままじゃ、もう二度と会えないような気がしてしまったから…。

「…自分の立場を考えろ。
ここはそうゆう場所だろ」
少しだけ振り向いて、横目でいわれた言葉を最後に、
空き教室のドアが閉まった。

「…っ」
とたんに力が抜けて、僕はその場にしりもちを付く。

僕は、どうすれば良いんだろう。
彼女に、会いたい。謝りたい。
彼女のために、なにか、したい。
だけど…僕にはそのための入り口すらないなんて。

「僕のせいなのに…っ」

何も持たない、ただの子供の僕は…今はただ、彼女の無事を祈り、泣くことしか、できなかった。





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