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忍足謙也と別れ、しおりを片手に部長とのミーティング部屋へ向かう。


タン、タン…


部員達の声が聞こえるのに、妙にその自分の足音が耳に響いた。
そして、彼と別れたことによって訪れてしまった自分の中のその静寂に、先ほどの彼を思い描く。
口元には、緩やかな弧を描いて。

「…聞いても、ええか?」

あのとき、
…一瞬、侑士と、重なった。
侑士は、深く、深く、考えてのことで。
忍足謙也は、無意識に、だと思うけど…

「姫さんは、それでええと思ってるん?」

誰もが…当事者の私ですら、避けている事に引き戻してくれる。
無意識だろうとそんなところが、似ていると思った。
お互い似ていないって言い張って、周りにもそういわれるって言ってたけど、ね。

足を進めながら、そう小さく笑いが零れる。


けれども

「…」

そのすぐ後に、先ほどの言葉の続きもそのまま思い出されてしまい、自然と頬の力が抜けてゆく。
そうしてその微笑みはすぐに消えてしまった。


「今、多くの企業や財閥で流れとる噂知っとる…?」


選択肢が、なくなってしまったことは分かっている。

だけど

…もし
もしも全てを捨てて、消えてしまうのなら…今しかない。
そう、考えて、しまうんだ。


なのに、心の隅にそんな気持ちを置きながらも、決して動かないのは、…みんなが、優斗がいるから。


…ただ、それだけだと、
自分に言い聞かせて、ずっと隠していた…。


だけど、本当は、わかってるんだ。

もう、戻るわけがないのに。
もう、私は愛してもらえないのに。

ちゃんと…、ちゃんと理解しているつもりだけれど…

「おいで、海里」

過去の幸せに、私は、
…未だ、囚われている。


「貴方が死ねばよかったのに…!」
「あなたなんて、いらない。生まなきゃ…よかっ…っ」

「本日限りで本低へ足を踏み入れることを禁じます」



何度も、何度も現実を、突きつけられているのに…。

「っは…」
先ほどの、幸せな笑いが、乾いたものへと変化した。
何が、楽しいんだろう。
いくら、もう信じまいと、過去は忘れると、誓っても踏み切れない、自分の馬鹿さ加減に…?
はっきりとは、自分でも、分からない。
だけど、なぜか笑いがこみ上げてくる。

「ほんと、なんで、だろ。」


こんなに、…目頭は、あついのに。









私は、幸せだった。
それが、全て壊れてからじゃないとちゃんと理解できないだなんて、
皮肉にもほどがある…。
TLDR


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あきゅろす。
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