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次の約束

精市の言葉に甘えたおかげで、ほとんどの仕事を済まし、後は午後のメニューに目を通して、15分後にある部長とのミーティングに備えるだけになった。
が、

「あれ…あ」
午後のメニューが書き込まれたしおりが、手元にないことに気がついた。
そして、そのありかも。

Aコートの倉庫の中、だ。

思い返せば、午前のメニューが終わったあと、急にけが人と具合の悪い人が相次いで報告に来て、内心、「みんなの管理がこんなに出来ていないなんて私は何をやってきたのだろう」と、へこんでしまったために、おいてきてしまった事に気がつかなかった。
それに小さくまた落ち込みながら、私はコートへ向かうことになった。

階段をトントン、と下りて域、寮のドアを押し上げると、唯でさえそんなに効果のなかった人工的な冷気が流れてしまい、更に体感温度が増す。
その暑さから、表情を下に落としながら太陽と目を合わせないようにコートに向かって歩いていく。

そして、ちょうど門の入り口前にさし当たった時だ

「あ、おった」

セミの鳴き声だけだった空間に響いたその声に私は顔を上げる。
すると、そこには…

「あ!今朝の…!」

『あの』ピアスの男の子がいました。


「今朝のおねーさん、やっとめっけたわ」
無表情そうな子だな、と思ったのに、その子はそう言うと小さく微笑んだ。
そんな表情に、私のどこかできゅん、という効果音が聞こえる。

な、なんだ…?
この子…かわいい、よ!?

「どうしてここ…」
とりあえず、そんなその子に疑問をぶつけて見ると、その子はおしていた自転車のフェンダーを指差した。
すると、そこには、自転車通学の子用なのか、四天宝寺のマークが入ったシールが張ってあった。

「ここに、『四天宝寺中』って、入っとったから」

「あぁ!
えっと、ごめんね、わざわざありがとう」
冷静に考えてみれば、謝る側でもお礼を言う側でもないのだが(しかも白石君の自転車だし)わざわざここまで来てくれたことを思うと、なんとなくそう口から出てきた。
それに、その子は呆れたようにため息をつく。
思わずその行動に私はきょとんとした。

「謝るんはこっちやろ。
お姉さん、ええ人すぎ。そんなんやから俺みたいのに自転車とられてまうんや」
まぁ、俺が言うのもあれやけど とその子は頭をかきながら言う。
私はそれに苦笑いを返して、その子が差し出した自転車のハンドルを受け取った。

「にしても、おねーさんここの高校なんやな」

「え、」
違う、そう言い掛けようとするも、すぐにその子は続けてしまう。

「俺は、財前光。
また、すぐに会えるから、よろしく」
ニッと笑ってから、私に背を向けるその子…財前君。

「え…、『すぐに会える』って?」
少し進んでしまった彼に聞こえるように大きく言う。
と、彼は一瞬だけ振り返った。

「入学式、俺のこと探してや」

彼も、この学校に…?

…って、



「私ここの生徒じゃ…!…行っちゃった…」
誤解を解こうとしてみたが、もう既に財前くんの姿はそこになかった。
…なんだろう。この罪悪感。
それを感じるものの、私にはもうどうする事も出来なかった…。






せっかくやから、あのオネーサンの名前も聞いてくればよかった…。
まっ、来年のお楽しみにしとくか。TLDR



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あきゅろす。
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