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優しさ


「もう合宿やだ。帰りたい」

昼食を済まし、私の部屋に来た雅治が涙声で呟いた。





「あのね、雅治。
熱中症になりかけたのも、こうして日焼けでひどい目にあっているのも、全部自業自得だからね。」
私はそうため息と共に言いながら雅治の首裏や腕に、日焼けケア用のジェルを塗っていく。
それに時々「痛い!」「もっと優しく!」と悲鳴を上げる雅治。
そんな彼に気づかれないように私は思わず小さく笑みをこぼした。

こんな雅治の一面を見たのは初めてのことだからか、なんだか楽しくて仕方がない。
それに、いつも助けられてばかりの立場から、こうやって頼りにされると嬉しくもあった。
まぁ、きっと、今まで『頼り』になんてされたことがなかった事もあってのことだろう。
案外実は私にはこの『マネージャー』という立場があっているのかもしれない。

皮肉めいて言えば、決して表舞台にでるところがないところも、だ。

なんて言いながらも、それは『卯月』の私にとっての言葉であり、『海里』にとっては、もっと本当に素直にこの位置が気に入っている。
この気持ちには、偽りなんてなかった。


「ねー海里、俺にも塗ってよー」

ふいに、背後で二段ベットの下…ブン太の布団に腰掛けている精市が私たちに向かって声をかける。
なんとも退屈げだ。

「精市は比較的平気でしょ」
そんな精市に、私は振り向かずにそう告げる。
その対応が気に入らなかったのか、精市は私の隣までやってきて腰掛けた。

「じゃぁ日焼け止め塗りなおしてよ〜」

「自分でやりなさい」
言いながら日焼け止めを差し出す精市の手を雅治に塗っている手と反対の手で押し返した。
それに真面目に落ち込んだ顔をする精市に私は、思わず罪悪感を感じてしまう。
けれど、すぐに精市はパッと顔を明るくあげた。まるで「そうだ!」と何かを考え付いたようだ。

「海里、この後も昼休み中にやることいっぱいあるんだろう?」
ニコニコと、さっきとは打って変わった態度で私の片手から、ジェルのチューブをさりげなくとる精市。
そんな彼に私は手を止め、彼の顔をキョトン、と見つめ返した。
目の端では、嫌な予感がする、というように雅治がピタリ、と全ての動きを止めていた。

「ちょっまっ!」
「確かに、もう少し仕事あるんだよね。
でも」
これくらい大丈夫よ? そう言おうとすると、精市が更に笑顔になった。

「いいよいいよ。
仁王のことは俺に任せてよ。
海里は仕事早く済ませちゃいな」

「海里いかなっむぐ「ほら、はやくはやく」
そう精市に立たされると、ドアのほうへ押された。
それに、私は慌てつつもされるがまま足を動かす。

…目の端で、精市の片手が雅治の口を塞いでいるような気がしたが、きっと気のせいだろう。

「あ、う、うん。
じゃぁお言葉に甘える、ね?」
押されるがまま、私は最後にお礼だけ言って部屋を後にした。



「まああああ!海里かむばあああっむぐ!」

「仁王、静かに。海里が戻ってきちゃうだろ。
仕事をはやく終わらせて、少しくらいお休みさせてあげたいだろう?」

「うっ、そう、じゃけ、ど…!」

「ね?」

「う、うわああああああ!!
それでも幸村にはやってほしくなかああああああ!!」





「あれ、今なんかきこえたような…」

「今は、行ってはなりません…」

「え、柳生君?どうしたの、顔が青いよ?」
「仕方ないんです。
幸村君のたまったストレスを今発散させておかないと、後で他のメンバーも巻き込まれてしまうんです…。
(…仁王君、成仏してください…)」
「え?え?」
TLDR



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