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動想


「おつかれー!」

「ありがとうございます」
柳生君にドリンクを手渡し、これで立海は全員配り終わった
四天宝寺も、あと一人…、


あとは…
白石君、だけ…


最後のドリンクの入ったボトルを
少し強く、握った





少しみんなから離れた、日陰
そこには、探していた人物の姿

「悪いけどこれは没収するで」

どこか近づくのが、怖くて

まだ言えてない自転車の事とか、そう言う感情もある
けど

今ある感情は、きっと…違うもの


踏み込んでこないで


もう一人の、嫌な私が叫んだ
でも…
「しっらいし君ッ」
彼に、笑顔を向ける私

気付いたら、身に付いていた。
その私を隠す術

「海里ちゃん…、」
少し眉を垂らした彼が顔を上げた

「お疲れ様。
はい、」
言って、私は彼にボトルを渡す
それに彼は礼を言って受け取った

「…」

それだけ言って、その場を去ればいいのに、私は彼と共に、木に寄りかかった

なぜだかはわからない
でも、彼が私を心配してくれたのは確かだから
それに、どこかで分かってたのかもしれない

彼が、酷い人ではいないことを。

まだ、この時の私は彼の何も知らなかったのに…


「…あんな、海里ちゃん」

「…うん?」
白石君はタオルを頭に掛け、俯いて
私は向こうで騒いでるみんなをどこか遠くに見て…言葉を交わす

「俺、思いだしてん
海里ちゃんの持ってた薬の違和感」
その言葉を聞いて、私は視線を彼に向けた

「あの薬のままじゃ、絶対…どんなに使用者の精神が強くても今朝みたいなテニスなんて出来るわけあらへん。
ましてや、相手が体格差のある男ならなおさらや。
こう見えても、俺の体格は普通よりも成長が速い
だから、打つ球も少しくらいは同年代よりも重いはずなんや」

私も不審に思っていた、点
白石君なら、気付くと思ってた

でも、そんなの調べようが…

「でな、少し調べな確証はあらへんねん
だから…一錠でええ、俺にくれへん?」

「…え…?」
白石君のその言葉に私は目を丸くする
ポケットに無意識に入れていた手が、確かめるかのようにギュッと拳を作った

「今日、一度俺家に帰るねん
だから、その時に親父に極秘に調べて貰おうと思おてる」

ドクンと、心臓が脈うつと同時に、薬を握る手が強くなるのがわかった


私はあいつにたくさん酷いことをしたのに、
あいつが、私だけのためにくれたもの…

この薬を、
他人に触らせたくない

だけど、

「お願い、」

…知りたかった

「出来る…?」

今朝から違和感を覚えた症状
それから…
あいつが少しでも危険のあることを私に勧めるわけ無い、という幼き頃から蓄積された記憶

「ああ
まかせてぇな」
安心させるように笑いながら、白石君は私が渡した小さなカプセルをうけとる。
そして、それを人差し指と親指ではさんで目を細めた

「やっぱり…」

「え?」
彼の言葉に聞き返すように言うと、彼はさらに目を細めてその薬を見つめた。

「もうひとつ、違和感感じててな。
この薬、ここに番号が彫られてるのは普通何やけ、ど…」

一度言葉をとめて、今まで私が特に気にしなかったカプセルを半分に分ける重なり目を凝視した
その行動と同じように私もそこに目を向ける。

他の薬と何ら変わりない、片カプセル同士の重なり目…
なにか…

グッと、目をこらす




「文、字…?」
何とか、私でもそれが文字のような物だと判別出来た。
そして、それを読もうと私はもっと集中して顔を近づける。
そんな私と同様に、その薬に彫られているあまりに小さな文字を読もうと眉を寄せる白石君。

「この文字の下、本当は薬名のYから始まるはずなんや。」

そんな小さすぎる文字、調べたときに写真と同じだって…疑いすらしなかった
…こんなんだから、
いつも注意力がないって…あいつに言われるんだ…

「けど、これはLから始まってる。」

え…?

胸騒ぎが抑えられない
そんな私をよそに、彼はその文字を読み上げていく…

「L、e…i
è?これ、なんて読むんや…?
u、n…t、e、て?so、そ?ro…ろ…?」



「…っ」


確定、だ

私の願いなんかじゃ、ない
これは…やっぱり…っ


「…Lei è un tesoro.」


白石君が読み上げた言葉で、理解すると、私は顔を伏せ…そう読み上げる。
それに、白石君は「英語、読めるん?」と、キョトンとした瞳を私に向けた。

英語じゃ、ない…

「意味、分かるか?」

唇を噛み締める私
もう、…確定。確実だっ

これの送り主は…っ

「イタリア語で…『俺の…っつ」

言いかけて、言葉が出ない

私はその場に、思わずしゃがみこんでしまう。
手には強く、その薬を握り締め…

そして、
図らずも、瞳からは雫が、零れた…


「海里ちゃん?!」

「…の…」

『え?』
そう聞き返す白石君の声がどこか遠くに感じた…


Lei è un tesoro.




『俺の宝物』





「お嬢は、俺の宝物だから」





「気づいた、かな…」

「え?」

「いや。
なんでもないよ。行こうか」

「?
あ、ちょっまてよ!リョーガ!」







酷いことをしたのに。なんであいつはこんなにも私に…。

アイツは、本当に、馬鹿だ…っTLDR


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あきゅろす。
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