慈郎編8
「あの、ね
私と関わっちゃだめ、なの」
クッキーを食べ終えると、彼女は少し寂しそうにそう告げた。
そんな表情が見たいわけじゃないのに、
そう内心で呟いて僕は彼女のその表情を覗き込む。
「なんで?」
「…巻き込んじゃう、から。」
その後、いっぱい『何で?』『何で?』と僕は彼女に言葉をぶつける。
でも、彼女の顔は困っていく一方で…
妥協したように、でもひらめいたように僕は最後に彼女へ提案した。
「じゃぁ、じゃぁ、ここでお昼休みだけこっそり会うのは?」
それも、だめ? と泣きそうな顔を向けると、彼女はしぶしぶというように首を縦に振った。
それがうれしくて、嬉しくて、僕は思わず彼女に抱きついて喜んだんだ
それからというもの、毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
彼女は想像以上にお嬢様育ちで、
彼女に僕の常識を教えるのは、とても楽しかった。
僕の家での話、近所の猫の話…する話全てに彼女は目を輝かせて「すごいすごい!」と楽しそうに笑った。
それから、近所にある駄菓子屋さんの話だけはどうしても信じてくれないのも楽しい。
「そんなお菓子あるわけない!」「そんなに安くお菓子が手に入る訳ない!」と一生懸命俺に言う彼女はとても可愛かった。
不思議。
あんなに大嫌いだったのに、今はこんなに大好き。
がっくんがいなくて退屈だったけど、彼女がいてくれたから、本当に毎日が楽しくて
お昼休みが早く来ないか早く来ないかと、いつもわくわくして時計を見ていた。
そんなある日
今日は何を話そうかと、考えながら足を進めていたら…
「princess、この頃会えなくてすみません…」
「ううん。ちゃんと自分を優先してよ?」
思わず、身体を固めた僕。
そこには、僕しか知らないと思っていた大好きな笑顔が、違う人物…あのアトベに向けられた光景があった…
なんで…?
僕だけの笑顔、なのに…
呆然としながら、だんだんと涙が浮かんでくる
そして、気づいたときには彼女たちと反対の方へ駆け出していた。
「!」
「あれ、今慈郎くんそこにいた気配、したのに…」
首をかしげて私はそちらに目をやった
今日は、きたくなくなっちゃったのかな…
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