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慈郎編6


「海里ちゃーん!」

大きく手を振り、1組に入っていく
すると、教室中がこれでもかというほどにざわつく

そんなの気にも留めずに僕は彼女へ近づき、手に持っていたものを差し出す。
それと同時に、彼女は目をまん丸にして僕を見つめていた。
そんな顔も可愛くて、僕の頬は緩む。

「今日ねー調理実習で…」
言いかける僕の目の前に、黒いスーツを着た二人の大人が立ちふさがった。
それに、ムッとしてその人たちをにらみつけようとした、刹那

「申し訳ございませんでした。
よく言って聞かせますので」
目の前に、隣のクラスで有名な…そう、確かアトベだ。
そいつが俺の前に立って、頭を下げていた。

「…。
下がって。」

「ありがとうございます」
一礼して、俺の前に出たアトベがすごい勢いで俺に振り返る。
そして、
「ちょっとこい」
小声でそういうと、いきなりそのアトベに担がれた。

「うわあ!おーろーせー!」

「うるせー静かにしろ!」



嵐が去るように、静かになった教室。
ちらちらとこちらに来る視線に顔を上げると、一気に回りは目をそらして慌てて話をしだす。
それに小さくため息を吐き、手を額にもっていく。
そして、
うつむいて静かに、気づかれないように微笑んだ。

それは何からきた微笑なのか、
私は知っているけれど、気づかないふりをした。


しかし…
チラ、とSPに顔を向ける。

景吾と、ひつじ…慈郎くん、

ギュッと瞑る瞳


どうか、何事もありませんように…





「こんの、アホが!!」

スパン!

「いってええ!」
誰もいない空き教室。
そこに、僕の頭が奏でたすがすがしい音と、僕の叫びがこだました。

「てめぇな、何してくれてんだよ」
僕を叩いたアトベは、部屋のドアを閉めると、僕の正面に振り返った。
そいつの表情を見てみれば、声から分かってはいたけれど、怒っていることが伺える。

だけど、そんなことはどうでも良い。

「なんでお前に何か言われなきゃいけないんだよ!」
僕はただ、あの子の笑顔が見たかっただけなのに。
そう、にらみつけると、そいつは少し悩むようにしてから『ハァ』と、ため息をついた。

何だよ、そのため息。

そう、内心でつぶやけば、そいつへのイライラが増してくる。
「お前、princessにもう近づくな」
アトベが僕を冷たい目で見る。
どうでもいい、と。怒っていようが関係ない、と。そう思っていたのに、その目は、あの子がみんなの前を通るときみたいで、驚くほど、恐怖を覚えた。

「お前が何を考えているかは知らないが、なんの覚悟もなしにそんな事されると、あいつが一番困るんだよ。」
怒気の含んだ声。
それに、いつの間にやら俯き気味になっていた僕はそいつの顔を見上げる。

覚悟…?

「っと。あいつじゃない…princessだ」

小声で自分への訂正なのか呟いたその言葉に、一瞬の疑問は吹き飛び、僕はますますふてくされた顔になる。
そして、見上げていた視線をドアへ移し、僕と入り口の間に立っていたそいつを押しのけた。

「他の奴らと同じ呼び方するような奴に言われる事なんてない!」

ベーって舌を出して、僕はその部屋から駆け出した。


あいつは知らないんだ
あの可愛い笑顔を。

駆けながら頭に、彼女のあの笑顔を思い浮かべて…思わず僕も笑顔になってしまう。

あの笑顔は、僕しか知らないんだ。
なんだかそれがすごく嬉しくて、僕は笑顔を深めた。



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