慈郎編4
何だろう…
優しい、優しい…笑い声…
それから、とても…良い匂い…
半分眠りに付いたまま、うっすらと重い瞼を上げると、
そこには、
「うん!」
見たこともない、可愛い女の子がいた…。
「ひつじくん、今日も、いた」
そう私は呟くと、ガサガサと木を掻き分けてそこへ足を踏み入れた。
そこには、昨日もここでお昼寝をしていたひつじくん…じゃなくて『慈郎』くん。
もう一人の子は今日はいないみたいだ。
そーっとそ−っと近づいて、私はその子の表情を覗くように、体育座りをしてその子を見つめる。
きれいな子…
すごく、かわいい…
ひつじみたいなふわふわの髪に、とっても幸せそうな寝顔。
私はそんなこの子に妙に惹かれていて…その寝顔が好きで仕方がなかった。
でも、その表情を目にすると同時に、脳裏では食堂であったあの時のこの子の瞳が繰り返された。
あんなの、慣れているのに…
なんて、自分に言っても気を落とさずにはいられなかった。
それに、この子、いつもつまらなそうなんだもの。
笑っていても、全然笑ってない。
まるで少し前の景吾みたい…
そっと、起こさないようにその子の頬に触れる。
とてもやわらかくて、まるでお餅みたい…
すると、その子はふに、とかわいらしく笑顔になる。
そんな顔に、私は思わず微笑みを浮かべた。
こんな表情だってできるのに。
とっても、可愛いのに…。
いつも、こうして笑っていられればいいのに…
そう思うと同時、私はポケットに昨日の飴が入っている事に気づいた。
それを取り出して、手のひらにのせ、ジッと見つめながら悩む。
「…」
そして、一度うなずくと私はそれをその子の手に乗せた。
飴を食べると、とても幸せになるの。だから、この子が起きている間、少しでも幸せな時間が長くあるように…
すくっ、と、立ち上がり、私はその茂みを後にした。
と、
「!」
ビクッと、一度身体を跳ねらせる私
そんな私に、そっとその人…お兄ちゃんは近づいてくる
「あのっお兄ちゃ…」
「大丈夫。誰も怒りはしないよ。それに、俺も人は選んで言うから」
ポンポン、と優しく髪をなでられる。
それに私は安心して笑みをこぼす。
私たちは、決められた人意外と接触してはいけない。
それは、もちろん景吾だって。
お母さんもお父さんも「良いよ」って言ってくれるけれど、おばあちゃんはそれを「だめ」だって、いつも私たちに言い聞かせてて…
理由を聞くと、いつも悲しそうに「最後に傷つくのは貴方たちだから…」って、抱き締められる。
『むやみに人に心を許してはいけないよ』
それは小さい頃から言われてきた言葉。
でも、おばあちゃんが言っているのはそれとは違う気がした…。
「さ、SPが探してた。
俺も一緒に行ってあげるから、行こう?」
「え、そんなことしたらお兄ちゃんまで…」
怒られちゃうよ?
そう続けようとしたら、お兄ちゃんは優しく私に微笑を見せる。
「大丈夫。
それに怒られるとしても、海里と一緒だったら楽しいよ」
大好きな大好きな優しいお兄ちゃん。
私はそんな彼の腕にギュッと抱きついた。
「海里?」
「折角誰もいないんだもの…
少しだけ…」
「海里はいつまでたっても甘えただな」
くすくすと笑いながら優しくなでられる髪。
それがとても気持ちが良くて私はそっと瞳を閉じた。
お兄ちゃん、ごめんね。
最近、勉強が忙しいの…私のせい、だよね。
私が覚え、悪いから…
「お兄ちゃん…」
「うん?」
「ありがとう」
悲しいこの気持ちを隠したいのに、
表情に出てしまっているのが、自分でも分かった。
ごめんね、お兄ちゃん。
大好きなのに、私はこの人を苦しめてる…
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