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窃盗


「ね」
そう笑いかける海里ちゃん

あぁ…
わかった
前からどこか気になってたこの微笑みは…

ちゃうんや

心から…ほほえんでないんや


なにか…
かくしてるんや

そう…どこか遠くで思った






みんなが朝の軽いランニングをやっている間
四天宝寺側が用意していてくれた氷がなくなったことに気付き、私は近くのお店へと借りた自転車を走らせていた。

昨日の内に気付けば良かった、と向こうの部長と肩を落としたのは先ほどのこと。
まぁ、幸い急遽メニューに入った朝食前のランニングで使うほどの小さい氷はあったから良いのだけれど…
向こうに頼りきりだった自分に少し反省した。

そうこう考えている内に目的地へ着き、ブレーキ音を鳴らして自転車をコンビニの駐輪場へ止める。

店内に足を踏み入れると、心地よい冷気と元気の良い店員の声が私に降り注いだ。


板氷を今日の午前・午後用のを多めに、各校4枚ずつ…計8枚購入し、両手に持つと、顔が引きつるほどの重さを感じる。
そしてそれと同時に、足がピクリ、と脈打ったのが気持ち悪いくらい分かった。
その重さに、やっぱり雅治に付いてきて貰えば良かったかな、と苦笑いがこぼれる。

私が出かける前、氷を買いに行くと二人の部長と話していると、
たまたま通りかかった雅治が「俺も行く」と名乗り出てくれた。
でも、それに私は「そうやって、ランニングサボる気でしょ」とクスクスと笑いながら返して、
それを聞いたうちの部長が雅治の頭をグリグリとげんこつで挟んで、笑いと共にその場は流れた

だけど、四天宝寺を出る時にもう一度雅治は気遣うように私にまた声を掛けてくれた
そんな彼に、私はまた、「自転車借りたから平気」と笑って返したのだった

もちろん、知ってた
雅治が、心配していってくれたことだって。
…でも、私の仕事のせいで彼の練習を減らしたくなかったから…


自動ドアの下を通り、元気な店員と冷気に別れを告げた

不意に空を見上げる
そこには照りつけるような太陽

テニスは精神競技

神奈川より熱い大阪に来て、良かった…と私は小さく笑った
その分、みんなの体調管理に気を遣わなくちゃと、同時に改めて自分に言いきかせ、私は足を踏み出した

そして、自転車の鍵を開け、荷物を持参の保冷袋が入ったかごに入れようとした…その時

「ちょぉ、お姉さんそれかして!」

その声と共に、私の目の前にあった自転車は動き出してしまう
「え…ちょっ!」
…黒髪の少年によって

「後で絶対返すから!」

そう、大きめの焦った声で言うと私の前を通り過ぎるその少年
そして、その瞬間になびいた髪から見えたのは…

沢山のピアス…

「光ーまちぃやあああ!」

「待ってたまるかくそチビっ」
その彼を追いかけるようにして、赤髪の元気が良さそうな少年が駆け抜けていく

「…」

ただ呆然とする私


…どうし、よう
待ってるったって、これ氷だし、ご飯食べたらすぐ午前練習始まっちゃうし…
それに、精市たちのことだ…私が帰ってくるまでご飯を待っていてくれてしまうかもしれない

そうだ携帯!…は、「すぐだし、荷物になるし」とおいてきたん、だった…

そうこうしているうちに、手に持った袋からは小さな水滴がしたたる

…走って、かえるしかないか

チラリ、と自分の足へ視線を送る。
ピクピクと、震え、まるで自分のものではないようだ。
薬のせいかは分からないし我慢できるほどではあるが、眩暈もする。
さらに、正直に言ってしまえば、白石君との試合、そしてみんなの前で平気なフリをしていたために、今朝よりひどくなっている。

…でも、

氷に視線を移し、これは自分のせいだから、と走り出そうと…

…って、それ以前にあの自転車借り物ぉぉぉぉ!

表に出さないように、ただ顔を青ざめさせていた私はついには頭を抱え出す
暑さとは違う汗が流れるのを感じた



その時…


「お!おったおった!
おーい、マネちゃん」

目の前に止まったワゴン車
から、手を振る四天宝寺の顧問の先生に声を掛けられた

「渡邊先生ー!」

まるで天の助けとでも言うように私はそのワゴン車に近づき、渡邉先生を見上げる

「迎えにきたでー…って、なんでそんな迷子みたいな顔しとるん?」



天の助け…!TLDR




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