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知渡-2


「ん、なんか落ち…」

白石君はそう言って屈む
それに疑問符を浮かべながら、私はその手の中のモノをみつめる

「この薬…」
っ!!

バッ
そう音を鳴らせるように、私は彼の手からそれを奪い去ろうとする
が、‘それ’…基、‘薬’はいまだ彼の手の中だった。

その瞬間、どこかあせりのあまり膠着していた私の表情はハッと目を見開いた。

「ちゃう、家が医者なんは謙也の方。
俺は親父が


薬剤師やねん」



「やっ
返して!お願っ」
滅多に見せない叫ぶようにして言う私に、立海のみんなは…ううん、白石君も驚いたように私を見ている。

私には決して渡らぬように力を込めて遠ざけるその薬
脳裏に、

「もう、離れたく、な…っ」



「大丈夫、泣くな」



彼と引き離されたあの日が回想された


でも、すぐに現実に引き戻される
「あ…
ごめ、ん」
目を丸くしながら、震える手を隠した

静かなその場に、嫌な感じを覚えながらも
私はまた口を開く

「拾ってくれてありがとう。
でも白石君、それ返して?」

そう、願うように彼を見る
でも、彼は一瞬表情を崩しながらもまっすぐと私を見た

「その薬、どないしたんや?
それに、海里ちゃんどこか怪我し…」

「っ何でもない」
私はそう目を合わせずに言う、

そして、「ね」顔を上げて私は出来る限り『普通』に笑いかけた

でも、白石君の表情は変わらない
どころか、一度唇を噛み締めた

それを見て、私は彼がある点を知らない事を願った

お願い…
精市達の前で言わないで

でも、次の瞬間その願いは儚く打ち砕かれてしまう。

「いつ、飲んだんや」
ぐっと、私は押し黙る

薬の持続時間は半日

「個数と、怪我をしていると考えて…
こんな薬飲みながら…試合してたん?

この薬な、飲んだその日は大丈夫やけど次の日相当きついんやで
だから今開発段階なんや

…っ何でもないとか、んなわけないやろ!
この薬、どんだけ強い薬か自分知って…っ
…まさか、知っててつこうとるん!?」
そう、私の両肩をつかむ勢いで乗り出す白石君

それに、私は「大丈夫だよ」と、眉を下げながら笑う

「そんな事言えてるんは今だけや!!
すぐに・・っ」

彼が言って、私の手を引いて休める場所へ連れて行こうとする。
でも、正直立っているのもやっとの私。
少し荒めに手を引かれてしまったら…

「あ…っ」

そう、よろけた私に、ザッと立海のみんなは動こうとしてくれる。
そして、白石君は目を大きくして振り返った

「え…

…もしかして…
っ」
気づかれてしまった、そう理解したと同時、

「なっ」

いきなりにも抱きかかえあげられ、
私とそこにいたメンバーが驚きの声を上げる

「っおい、しらい「うっさいわ!言いたい事はわかるけど、今はそれどころじゃないんや!!」
ブン太の言葉を遮り、白石君は寮塔の入り口に向かう
後ろからはみんなが駆けてついてくる

「ちょっ!白石君、大丈夫だから!」

「んなわけあるかいな!
昨日のあの気温と試合の体力消耗ですら汗掻かせんかったくせに、今めっちゃ背中汗だくやん!
しかもこれ、冷や汗やろ?!
なんでそんな平気な顔して…」
言いかけた白石君の腕の中で私は少し暴れる
それに、白石君は困ったように足を止め、
それを確認して、私はそこから飛び出て地に足をつけた

「お察しのとおり、薬は切れてる。
でも、ほら、立てるでしょ?」

「でも、その足の震え…身体は反応してるやん!
おかしいで…
なんで…」
不安なような表情を浮かべる彼に、私は一瞬だけ…本音の表情を見せる

「…なれちゃったの」

でも、すぐに元の私に戻して笑ってみせ、彼にさらに近づく。それはもう顔がくっついてしまうように。
そして、彼の耳元へ口を寄せた

「私って、演技力あるみたい」

そうまた笑って私は彼から離れる。
そして前へ踏み出し…彼に背中越しに伝えた

「ごめん
薬の事…全部わかっていた。
でも、これの事は秘密にして?
これを奪われたら、絶対今みたいに振舞えない」
彼が振り返るのを知っていて、先ほど彼にくっついたときにそっと奪ったその薬を、振り返らずにみせた。


優斗は、
私を信用して

そして、少しでも私を苦痛から助けようとして

この薬を全ての目を盗んで私の手元まで届けてくれたんだ

なのに、
私は・・

彼のその気持ちを踏みにじってる

「ごめん、」
小さくその薬に、あいつへの言葉を呟いた。




「ごめんね。
もうすぐ朝食だよ。行こう」
ニコッと笑って、私は立海メンバーに声をかける。

すると、みんなの表情は不安な顔からどこか怒りを含んだ顔になる

え…

はじめて見るその表情に、私は動きを止めた
「海里」
そう、精市から出た声は普段よりも低くて…私は不安を覚える

「いい加減にしないか。
俺らに心を許せないのは分かる。でも、」

身体の事については…

そう言いかけるその口に、私は自分の手を重ねていた

「ごめん、ね」
悲しい笑いを見せる私に、みんなのその表情は…だんだんと崩れていった。

あぁ、関係を壊しているのは私自身、か
なんて、どこか遠くで思った。

だけど、さ。

『心を許せてない』わけ、ないじゃない…。
みんなの事が、本当に好きだから、大切だから

踏み込ませたくない
景吾たちの…

優斗のっ
二の舞なんかにさせたくない…


全てを許してしまいたい
そう思うのに、この感情が、私にストッパーをかける…

でも、
きっと、

あいつの事に関して、私は、誰にも踏み込ませる事が出来ないんだ

あいつは、全てだから。
何かと比較する事すら出来る存在では、ない、から…

そこまで思いをめぐらせて、一瞬ハッとする。

私、まだあいつの事、こんなに…
…忘れるって、忘れたって…自分に言い聞かせてたのに…

自嘲に似た笑みが私から少しだけ、もれた。
それに自分であきれながら、顔を上げてみんなに笑顔を向けた。

「私ね、みんなが思っているほど弱くないよ」

これは、突き放すため?
それとも、助けを求めているの…?

自分でも、わからない

「朝食、遅刻するよ」

でも、
願ってしまってはだめだと思いながらも、

「…これでも、結構甘えてるんだけど、な」

後者なら、いいのに、と私は気づかれないように小さく呟いてから微笑んだ

甘えてるからこそ、
身体のことを隠そうとしている、というのはみんなには、通じているかな…

背にいるみんなを置いて、踏み出した足。
だけど、すぐにその足は宙に浮いた

「え、ええ!?」

「ククッ
お前さん演技下手じゃなー」
肩に私を担いだ銀髪が独特の笑みを見せる。

「こーの天邪鬼!」

ピンッと音を鳴らせて、
驚きに任せて視線を泳がせていた私のおでこをブン太がはじいた。

「ほんと。デレるならもっとはっきりとデレろ」

それに続いて、くすくすと笑いながら、こつんと柳君にこぶしを軽くぶつけられる。
その言葉に、先ほどの呟いた言葉が聞こえていたのに気づくと私は、ぽかんとしていた表情から少し恥ずかしさを隠す表情に変わった。

「海里さんは甘えるのが下手なんですよ。
だから私たちは、『もっと甘えてください』って言いたいんです」

ふわり、となでられる頭。
そんな柳生君に私は『ムズカシイデス』と、困ったような笑顔を向ける。

「お前が思っているより、俺たちこそ弱くはないのだぞ」
ぷにーと、頬を真田君に軽くつねられ、また私は笑い声をもらして…

私、自分で理解しているよりもこの空間がすきなのかもしれない、と
遠くで感じた…


「仁王?放そうか」


笑みを含んだ声に気づくと同時、今度はその声の主の香りに包まれる…


「たく、もー…
そろそろ俺らの気持ち、素直に受け取ってくれないと拗ねるからね」

『まぁ、俺ら根性はあるから負けないけどね』
なんて小さく呟いた精市


あぁ、もう。


私はその肩にしがみついて、表情を隠した…。




もう少しだけ…このまま…




不安
怒りにも似た心配
‘薬’を使う彼女に対して、様々な想いがこみ上げるのに…

なんで俺の心臓はこんなに五月蝿いのやろ…TLDR



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あきゅろす。
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