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知渡-1


痛くても
どんなに痛くても

苦痛で顔が歪んでも、


やっぱり実感したのは、



‘テニスが楽しい’
ということ







なんや
「もっと足動かさなきゃっ」
なんなんや
《スパンッ》

「私からポイント、とれないよ」

昨日とはどこか違和感があるモノの…
ニッと笑うその姿

めっちゃ、かっこええええええ!!

そう思ったと同時、


「海里!」

よく海里ちゃんの周りにいる立海のメンバーが音を立ててコートに入ってきた


「あ、」

それにキョトンとしていると、海里ちゃんは やばい というように汗を一滴、流した
そして瞬時に丁度コートチェンジだったことに近くにいた俺の後ろへ隠れる

目の前には怒ったように海里ちゃんを見つめ、近づいてくるメンバー…

状況が読めない俺はそっと背にいる彼女の顔を覗く
「(うわ、ちっちゃ…)」
ここまで近づいたのが初めてだったため、そんなことを思った

と、
少し見えた表情は、眉を垂らし、怒る親から逃げるようなもの…で…

「っ」

初めて見る表情
先程までは格好いいと感じていたその表情が不安げで、
さらには俺の背の裾を助けてと言わんばかりに握っている

…心臓の音が激しくなるのを感じた

「海里?」

「…っ」
笑顔で…と言っても笑顔なのは幸村君だけで…
とりあえず少しずつ足を踏み出すそのメンバー
そんな彼らに、海里ちゃんはバツが悪そうに俺に出来る限り隠れる

「何を、してたのかな?
というかまずこっちおいで」

「いかない
なんか見ちゃいけないオーラが漂ってるもん」
怯えるように言う海里ちゃんに、幸村君以外のメンバーは無言でも共感していることが何となく分かった

「そんなのないよ

で?
なにやってたの?」

うっ と一度言葉を飲み込む海里ちゃんはチラッと仁王君を見て…
一瞬、更にバツの悪そうな顔をした

「ち、ちが…
えっと…そう!白石君にフォームを見て貰って…て、」
段々と小さくなる声
『あわせて!』とその子は俺に視線を送る

「ふぅん?
じゃぁ、なんでコートの両側に違う大きさの足跡が広がってるのかな?」
その言葉に視線をコートに移すと、運悪くもそこはオムニコート
くっきりと俺らの『試合』の証拠が残っていた

「それは…そのー…さっきコートの中で遊んで、て」

「へぇー…
海里はコートの中で…神聖なコートの中で遊ぶんだ?」

「…う」
どんどん気を弱くしていく彼女
未だ状況のつかめない俺だけれども、ここで彼女をかわいいと感じてしまうのは空気を読めていないのだろうか?

「それに、その得点板は?」
幸村君の言葉に、視線を追うと、そこには今さっき変えたばかりの‘5-0’を示す得点板…

「き、昨日戻すの忘れちゃって…」

「こうゆう仕事、いつも完璧にこなす海里がねー…」

「わ、私だって、ミス、する…もの、」

罪悪感に耐えられなくなったのか…海里ちゃんは俯く
そして、小さく、ぽつり、と
呟いた

「…私だって、テニス…好きだもの…」

キュン

確かに、その効果音が聞こえた





その時

パサ、

何かが海里ちゃんのポケットから地へ落ちていった
「ん、なんか落ち…」



俺はそれを拾い上げる



これ…


それには見覚えがあった
確か、親父の会社の研究室にあった…

‘試作品’、だ

海外からきたモノで、まだ売られてはいないはず…

…ちゅーか…これって、

「へー、てことはこれかなり凄い薬やん」

「そうでもないねん
これはな、確かにかなりの優れもんや
でもな、その代わり強い薬やから、あんまつこうたらあかんねん」

「使いすぎたらどうかなるん?」

「…怖い、副作用に見舞われるんや…」

「怖い、副作用?」

「せや…それは…──



…親父は、ああ言ってた
けど…、

俺は自分の手にあるそれに目をやる

六個中一個、ない
それに…

一つは、使おうか悩んだのか…
プツリ、と爪が差し込まれた跡があった

これが日本に入ってきたのはつい最近で、俺の親父の研究室にのみ、きたと聞いた
でも、なんでそれが海里ちゃんの手に…?

それに…どこか記憶と違う箇所が…

っいや、それよりも、や





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