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心忠身


「Which?」

「ラフ」



ポケットには、薬
でも、
今は…今日は使わないよ

もう、同じ過ちを…犯さない

連続で使わないように書いてあったのは…
私を信じてのことでしょう…?

それに、
薬の粒が減るたびに…彼奴から遠ざかるようで、
心に少しずつ穴が開く気がしたから…

だから、私は…

「手加減なんてせぇへんでな!
俺、海里ちゃんのテニス、かっこええし楽しそうでめっちゃ好きやねん」

「、うん!」

‘いつも’のように、ラケットを振るよ








朝食より早い時間
段々と廊下を行き来する人数が増えた

そんななか、

「なぁ!海里知らね?」
そう言って部屋に入ってきたのはブン太
洗面所からは柳が洗顔する水音が響いていた

「部屋にいないの?」

「いや
飲み物買いに行くっていってから帰ってこねぇんだよぃ」
ブン太は眉を軽く寄せて悩ましげに言う

それに俺は首をかしげてかえす
「途中で誰かにあって話し込んでるんじゃない?
まだ朝食までは時間あるし」
俺の言葉に、ブン太は「そ、そっか」と何ともキレの悪い返事をした

すると、
「丸井も気付いたんか?」
ブン太の後ろから
下は黒のシャカパン、上はタンクトップでハイネックの黒い服を着た…まだ寝間着だと思われるカッコの仁王が顔を覗かせる

「『も』ってどうゆうこと?仁王」









「(なんか…昨日と動きが、違う…?

…でも…
やっぱ、めっちゃつよい…!)」





「うわ…
俺、これでも強い方やと思ってたんやけど…」

「白石君はうまいよ」
コートチェンジ中、汗をこれでもかと溢れさせた白石君は点数版を見つめて
落ち込みながら途切れ途切れに言った
それに私は彼の目を見て言う

「そこ『強い』やないんや…」

「だって、白石君は『強い』より『うまい』もの。
フォームが綺麗だし、なんだか…なんて言うんだろう」
うなだれる彼に、私は素直な気持ちを表す言葉をうねるように探した

足は、無意識に片足で立っていて、片手は審判台についている

どこか、足が脈打っているような気がするが…
…もちろん弱い自分を見せたくないとか、そうゆうのもあるけれど
ここまで目を輝かせた彼をがっかりさせたくない、とも思った

「やっぱり、『綺麗』だな
多分、白石君はこのまま行けば誰よりも強くなると思う
一番強いのは何でも『基本』だから」

「基本?」
反対側からコートチェンジをしようとしていた彼は、私の方へ足を進めながら、そう聞き返した

「うん。
白石君の動きは基本そのものだよ
普通、慣れてくるとみんな『自分の』打ち方に変わっちゃうけど…」

「けど?」

「白石君は基本を守り抜いたままの打ち方なの。
見入るって言うか、

すごく…
見てて、綺麗」


「っ」

そうふわりと笑った彼女に、
鼓動が早まった


今日は、なんや…暑いわ…








「『も』ってどうゆうこと?仁王」

そう聞くと、仁王は顎に折り曲げた指を当てて、視線を落とした

「昨日の夜、ロビーで海里に会ったんじゃが…
なんか急に転びそうになったり、返事が曖昧だったり…嫌な汗を掻いてて…な」

「え…っ」
仁王の言葉に、俺とブン太はバッと効果音を上げてそこら辺を泳がせていた視線を仁王だけに集中させる

「心配で部屋まで送ったのは良いが…、本人は大丈夫って連呼するもんじゃから…それ以上はなにもできんかった」
ジェットコースターに乗ったように…内蔵が浮くみたいな感覚がした

嫌な…予感が…

「なんか…
昨日のまるで足の痛みを感じさせなかった振る舞いと…関係あるかもしれん…
って言っても、
俺らがそこまで踏み込むべきじゃ無いのかもじゃが…」

その言葉は、
俺らの動きを止める

踏み込んで良いところと
悪いところ

海里にはまだいっぱいあって…

海里の事が好きだからこそ、大切だからこそ…動けない



脳裏にちらつくは、彼女の家に行ったときに段ボールを抱えて泣く姿だった…



黙った俺たち

でも、
次の瞬間

「おい!Aコートで海里が試合してるぞ!」

ジャッカルの声に、
我に返ったような俺たちは、走り出していた



頭では、分かってる

分かってるのに、

踏入過ぎて
嫌われたく…ない、のに…



今回海里に一番近かったのは
俺なのに、
…やっぱり、一歩を踏み出せない上に
更なる異変にも気づけない俺って…、っTLDR



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あきゅろす。
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