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夜道


「ふぅ・・」

夜、私は眠れないのもあり、足に痛みが走らない数年ぶりの感覚に喜びを感じ、でも無理をしない程度に夜風に当たりながら走っていた


と、


パーン
パンッ

聞き慣れた音が耳につく
私はその音をたどって、ただ何も考えずに目で探した

「!」

すると、その音のもとには
白い街灯に照らされ、壁打ちをしている


白石君の姿



・・汗、掻いてる

白石君は結構激しく打っていて、動くたびに髪の先や額から汗の滴が散っている
そして、それは明かりに照らされていて・・キラキラと一つ一つが宝石のように輝いていた

つい、私はそれに見とれて・・足下に転がってきたボールに気付かなかった

「・・・。・・え!?」

急に声が聞こえて、ハッとすると白石君が驚いた顔をしてこちらを見ている

「え、あ、ごめん!・・じゃっ!」
邪魔しちゃ悪いと、私は背を向けて走り出そうと・・

「まって」

したところ、息を切らせた白石君に手首を捕まれる

「そ、その、えっと、あー・・い、一緒に散歩でもせぇへん?」

呼び止めてしまった自分に自分が一番驚き、慌てる白石君は頭を掻きながら言った


そんな姿がなんだか可愛くって私も驚いてから、笑顔で答えた







「いつもこの時間から練習してるの?」
二人で土手を歩きながらそんな会話を交わす

「まぁ、な
もっと遅くにやると睡眠時間減って健康に悪いかんな」

「健康って、」
私は片手を口に当ててクスクスと笑う
すると、白石君は口を尖らせた

「健康第一やでー」

「そうだね
もしかして、家がお医者さん・・とか?」
未だ笑いながら言う私

「ちゃう、家が医者なんは謙也の方。
俺は親父が薬剤師やねん」

「へー・・そうなんだ」
白石君の言葉に、私は今まで前を向いていた顔をそちらに向ける

「せや。やから毒草とか詳しいで」
人差し指を立てて言う白石君に私はまたクスリと笑った

「にしても、いつも練習してるんだね」

すごい

そう付け足してまた視線を前に向けて言うと、白石君は驚いたように言葉を無くして、片手で口を覆う

「?」

「や、こうゆう風に人に努力認められたん初めてやから・・
なんや照れるわ」
言いながら、こちらに視線を移した白石君の頬はほのかに赤くて・・
無性に・・可愛く感じた

そんなことを思っていると、ふと・・白石君が口を開く

「自分も、いつも走ってるん?」
その言葉に、私は苦笑いをする

「ううん。
最近は全然」

足を怪我してからは
全然
最低限のことしかできなくて
足の筋肉が劣り・・体力が劣り・・長時間の試合は命取りになるようになった
今までは、『ねばり強さ』が自慢だったのに・・

「・・。
そうなん?じゃあ、普段どんな事しとるん?」

何もしないであの強さはないやろ

付け加えて白石君は興味ありげに聞いてくる

「これと言っては・・
最近私打ってなかったし・・。」

「嘘や、絶対ありえへんて!
あんな強うなるんに何もしてないわけあらへんて!」
んーと唸る私に、白石君は声に張りを持たせていった

「強く・・か・・
私なんかが言えた事じゃないけど・・、しいて言うなら『楽しむ』と『目標』かな」

楽しむ?

私の言葉に、白石君は首をかしげて復唱する

「うん。
今まで、テニスをするとき、大切な人が近くにいてね?」

「ゆーうと!」

「いつも、笑って一緒にテニスをしてくれて・・それが、凄く楽しくて・・。
いつからか、その人の背中を必死で追いかけてて・・って、意味分かんないね」

ずっと、追いつきたかった
貴方と同じ場所に、立ちたかった

私はつい紡いでしまった言葉を誤魔化すように、白石君に苦笑いを向ける

「あ・・いや。
その人は・・強かったん?」

「うん。私勝ったこと無かった」

「いや、やだよ!!優斗!!」

あの日まで・・一度も


「・・好き、なん?」

「へ!?
・・え、あ・・んー、好き、だよ。好きだった」
急な言葉に、私は凄い勢いで白石君に振り向いた

「『だった』・・?」

「・・うん。好きなんだ。好きだったんだ」


自分で言っていて分からなくなる

「優斗」

確かに・・愛しかった
私の世界そのもののようで、とても・・大切な存在だった

「お嬢ー、見てるかー?」

まだ、愛しさを感じてしまう
・・でも

「影宮優斗」

忘れなくてはいけない
鍵のしめた箱を・・絶対に・・開けてしまったらだめ、

それに、


「海里、俺は待つよ」


私は知らぬ間に、手を強く握りしめていた
すると、

キュ・・

白石君がその手を優しくといて、
手をつないでくれる

驚き、顔を上げると
白石君はやりきれなさそうな、苦しそうな・・
でも、
彼はニコッと微笑んでくれた


「毒手でごめんな」



・・また、自分の世界に入ってしまった


『ごめんね』そう心で呟いて、私も白石君の手を握り替えした







もう片方の手は、ずっと
ポケットの中の‘彼’を握りしめていたTLDR


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