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The last wars
第三話

2013年10月7日 AM5:01
東シナ海 魚釣島沖合
護衛艦《ちょうかい》艦橋

「目標との距離15マイル、相対速度35ノット!」
艦橋の外から見張り員の報告する声が飛び込んできた。
艦橋の両脇にはウィングと呼ばれる細長い通路のような出っ張りがあり、そこには見張用の大型双眼鏡や羅針盤、測定器具が設置されていた。
そしてここには航海科の科員が見張と水上監視を行っていた。
「旅大級及び杭州級、その周辺にフリゲート多数!国旗及び海軍旗を目視にて確認!!」
目視により接近してくる艦隊が中国艦隊に間違いないことが確認された。航跡や編成などからまず間違いなかったがこれで確実になった。海軍旗とは国際条約で国旗とは別に艦の後方に掲げることが定められている識別信号旗でその艦がどこの国に所属しているかを示すものだ。
「中国艦隊に打電!内容『こちらは日本国海上自衛隊である。貴官らは日本国の領海を侵犯しようとしている。所属を上告し停船されたし』だ。英語の他にも中国語で打電、発光信号でも伝えろ」
深谷は作戦規定に則った行動を命令した。本当なら所属は目視で確認しているので必要はないのだが、それでも外交ルートで抗議する際には必要なことだった。そして深谷の命令を受けてウィングの航海科員が探照灯で発光信号を撃ち始めた。同時にブリッジ脇の通信室でも通信士が伝聞を打電していた。

待つこと数分、中国側からの返信は直ぐに《王 劉元》中将の名前でもたらされた。
「中国艦隊より返信『我々中国人民解放海軍ハ日本国ニヨッテ不法占拠サレ、貴国ガ先島諸島ト呼称スル地域解放ノタメ作戦行動中デアル。貴官ラガ我々ノ行動ヲ妨害スルコトナキヨウ警告スル。我々ノ行動ヲ妨害シタ場合、我々ハ武力ヲ以テ対峙スルモノデアル』です。」
通信士が伝聞を読み上げても深谷はこれといって動じることはなかった。この内容はある程度予想されていた事だからだ。最初から中国が警告を受け入れるなどとはだれも考えていなかった。
「予想通りと言えば予想通りの返答ですね」
艦長の後ろに控えていた阿部が言う。
「あぁ、奴らは一戦交える気だ。通信士!東京にもう一度武器使用許可を要請しろ」
了解、と答えて通信士は通信室に向かった。
「《ちょうかい》艦橋よりCIC及び各艦、対空・対水上戦闘用意!」
『《ちょうかい》CIC了解!』
坂井砲雷長の復唱に続いて《はるさめ》《はたかぜ》《はまぎり》の3隻からも準備完了との連絡が来た。もともと戦闘待機状態だったため戦闘配置への移行は速やかに終わり、護衛艦は完全な戦闘状態に入った。ただひとつ、武器使用許可がいまだ無いことを除けばだが・・・・
「全艦面舵20で中国艦隊の進路に割り込む!」
深谷の命令を受けて4隻の護衛艦は一糸乱れぬ艦隊運動で進路を変えると中国艦隊の進路に割り込んで行った。敵に対して側面をさらすのは砲撃の命中率が高くなり戦術としては愚策だったが対艦ミサイルはおろか先制攻撃そのものを制限された護衛艦隊にはこうするしか敵を止める手段が無かった。
「中国艦隊の主砲がこちらを指向!距離8マイル」
『CICより艦橋、ESM探知!ロックオンされた模様』
ウィングとCICからの二つの知らせ、これはもはや護衛艦がまな板の上の鯉であるのと同じだった。あとは中国艦隊の砲撃手がボタン一つ押すだけで護衛艦は反撃の間もなく沈むか大破するだろう。

ミサイル全盛時代において自衛隊の護衛艦は基本的にロングレンジでのミサイル戦闘を想定して設計されており、その最たる例がSPYレーダーを装備したイージス護衛艦だった。
つまりクロスレンジでの戦闘を想定して設計されていない護衛艦の装甲は脆弱で精密機器も外部に露出しており、被弾後の戦闘を想定されていない。ミサイル全盛の時代においてはロングレンジのレーダーと対艦ミサイルにより【敵よりも早く発見し、敵よりも遠くから発射し、敵よりも先に撃破する】のが基本であり第二次世界大戦時のように敵の砲弾を受け止めることができるような重装甲を持った戦闘艦はロシアのキーロフ級を除けば存在しない。
「武器使用許可は!?」
「未だにありません!」
こちらから撃てないというのはつまりこういった状況で自分の身さえ守れないということだ。これは現行憲法がどれほど矛盾したものかを如実に物語っていた。これでは国は自衛官に座して死ねと言っているのと同じだった。だがそれでも自衛官の多くは家族や愛する者が平和に暮らせる場所を守るために自衛隊に入ったのだ。そう、たとえ政府の失策によって捨て駒になる運命であったとしてもだ。
『CICより艦橋、E-767が接近する航空目標を探知した。数4、方位080距離700マイル対地速度420ノットで接近してくる』
AWACS(早期警戒管制機)であるE-767と護衛艦はデータリンクシステムにより常にリアルタイムで戦闘データの交換が行われている。その為AWACSが探知した目標は同時に護衛艦のCICにも表示される。AWACSは静岡県の浜松基地に配備されている機体だが、今回は給油機とともに東シナ海まで進出して上空で警戒と管制を行っていた。そしてそのAWACSが護衛艦隊に向かってくる航空機を捕らえた。このあたりは上空にいるAWACSのほうが水上にある護衛艦のレーダーよりも有利だった。これは単純に、水面では水平線より向こう側は見ることができないが、高高度からならかなり遠くまでを見渡せるからだった。
「艦橋よりCIC、接近する対空目標を警戒」
『アイ・サー』
AWACSが探知した編隊の接触までまだ時間があるが念を押すに越したことはない。だが真に注意しなければならない敵は眼前の艦隊だった。
「中国艦隊との距離2マイル、進路・速度ともに変わらず」
このままでは日中の艦隊は直行して衝突する可能性があった。すでに距離は2マイルと艦隊同士が接触回避の艦隊運動を行うにはギリギリだった。
そして依然として中国艦の主砲はこちらを指向しておりいつ撃たれるかわからに緊張感が限界に達しようとしていたそのときだった。
「中国艦隊発砲!!」
突然の砲声とともに護衛艦隊の周辺に高い水柱が上がり、着弾を告げた。
「敵砲弾、両舷それぞれ20m付近に着弾!」
この距離で外れるなどありえない。これは明らかに威嚇であり「次は当てるぞ」という脅しだった。
「中国艦隊より入電!」
「読め」
「『只今ノ攻撃ハ威嚇デアル。本艦隊ノ作戦行動海域カラ離脱ガ認メラレナイ場合、次弾ノ命中ハ確実デアル』です」
要するに死にたくなければ道を開けろということだ。
「直ちに中国艦隊に返信“我が艦隊に撤退の意思は無い、日本国の領海を侵犯する貴艦隊はただちに進路を変更されたし”」
それを打電した直後中国艦隊の主砲が一斉に動いた。
「機関一杯、バウスラスター作動、急速転舵!!」
4隻は艦体を大きく傾けて一斉に転舵して回避行動に入ったがこの至近距離ではかなりの数が周囲に着弾して水柱を上げる。それも一度だけでなく二射目、三射目と連続して衝撃が走った。護衛艦は少しでも命中率を下げる為に個別に滅茶苦茶なランダム回避航行を行って敵の照準を外そうとした。
「全艦、被害状況を報告せよ」
そして敵の主砲の射程外に退避した所で艦長席に捕まりながら深谷は隊内電話の受話器をとって叫んだ。
『応急指揮所より艦橋、《ちょうかい》に被害なし。全力発揮可能』
応急指揮所からの報告にすこし遅れて他の艦からも続々と報告が集まってきた。
『《はるさめ》は全弾の回避に成功』
『《はまぎり》も至近弾あるも戦闘継続可能』
どうやら回避に成功したようだと、深谷も一瞬気を緩めたその時だった。
ちょうど艦隊の最後尾を進んでいた《しまかぜ》の艦首付近で大きな爆発が起きた。間違いなく中国艦の撃った砲弾が炸裂したのだ。狙っての攻撃だったのか、偶然だったのかは分からないが、射程圏外に離脱したと安心する瞬間だった。
『こちら《しまかぜ》艦首に直撃弾あり!!』
《しまかぜ》被弾、まさかの直撃弾に隊員には同様が走った。また艦橋のモニターでも《しまかぜ》艦首付近から火災が発生しているのが見えるということはかなりの被害がでた可能性があった。



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あきゅろす。
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